兵庫県姫路市の最北部、夢前町(ゆめさきちょう)の壷坂酒造さんが、毎年、新しい酒造りにチャレンジする「壷坂トライアル」。4年目になる今酒造年度は、低アルコール酒(13度)への挑戦です。毎回、試験醸造レベルの小仕込のため、出荷量は限られます。昨年の酒米「辨慶(べんけい)」を使ったトライアルはレギュラー化されるようです。2021年2月製造。
雪彦山 壷坂トライアル4回目(低アル) 純米にごり酒 720ml 1,320円
低アルコール酒にトライ、思い切った挑戦
兵庫県産山田錦を全量使用した低アルコール酒で、独自の方法で13度という低アルコールを実現しています。精米歩合は70%です。酒母は速醸酛で酵母は協会1801号。醪は四段仕込で、経過も通常の18酵母とは異なったもの。無濾過のにごりの状態で生酒として2021年1月25日に蔵出し開始されています。「思い切った挑戦につきビビりまくって製造計画をたてた為、720mlのみの限定500本となっています」というトライアルです。
独特の質感と甘味 爽やかなキレ
「ワクワクする仕込みに舞いあがり、興奮して、味については正当な評価ができずにいます。皆さま是非ご評価ください」(Facebook)というもの。
瓶の底には1㎝ほどのおりが沈殿しています。ゆっくりと混ぜて開栓すると、鮮やかで濃厚なリンゴの香りが立ち上がります。たっぷり絡んだおりとともに、口当たりから微細で強い発泡感が広がります。プルンとした固形感とともに旨味感のある甘味が湧きあがるところが特徴です。同時に、それに負けないフルーティで輪郭のはっきりした酸味が駆け巡ります。低アルコール的な特徴と言うより、四段目の効果でしょうか、独特の質感とコクのある味わいに魅かれます。フルーティーな全体像とともに、ホロリとして苦味で、意外に早いキレに結んで、爽やかな余韻を残します。
新開発の四段仕込で実現
低アルコールの手法は、超辛口まで発酵を進めてピルビン酸を無くした醪をつくり(ジアセチルなどのオフフレーバー対策でしょう)、最後に「甘酒のようなもの」を加えてアルコール度を落とし、すぐに搾るというもので、加水の問題点を回避しつつ、甘味を加えるというもの。「名付けて『大量四段ぶっ込みました法』」だそうです。「甘酒のようなもの」は「甘酒」ではなく、蒸米に糖化酵素を加えたもので、「甘酒」では不確定要素が多く、その後の展開が計算しきれないということだそうです。添加後は再び旺盛な発酵が始まるので、すぐに搾る必要があります。
こう書くと簡単なようですが、もちろん、そんなことはなく、醪の経過も細心の注意が払われて、木香やツワリ香の生成を防ぐため、酵母の代謝にストレスがかかならいようにする必要があります。低アルコール酒は蔵元さんが大学の卒業論文のテーマにしたもので、方法は異なるものの、「当時、ズンドウで試験醸造して以来」という数十年ぶりの挑戦です。
低アルコール酒のバラエティー溢れる世界
低アルコール酒はトレンドですが、造るのは難しいというのが、私の印象です。方法はいくつかあるようですが、まずは、加水してアルコール度を下げるというもの。もちろん、単に加水すれば水っぽくなるのは当然で、これを解決するのが課題です。この方法を採用しているのは沢の鶴さん(「shushu」10.5度)で、特許を取得されています。また、醪の発酵を途中で止めてアルコール生産を止める(もしくは低レベルに抑制する)という方法。これは、雑味が爆発するのを防ぐのが課題で、菊正宗さんが新酵母の開発によって実現(「天使の泡」10.5度)しています。発酵力の弱いオリジナル酵母を低い汲水でという白鶴さん(「別鶴」11~12度)もあります。さらには、ピルビン酸少生産性酵母を開発することで、アルコール発酵を抑制しようというもの。これは佐賀県の酒蔵が大学との共同開発で実現されています。有名な宮城県の一ノ蔵さんなど様々ありますが、直接、話を聞く機会がないので、概要も把握していませんし、詳細はほぼ企業秘密だと思います。