灘五郷の西の端、西郷(にしごう)に蔵を構える沢の鶴さんが2017年3月6日に発売した低アルコールの純米酒「SHUSHU」です。サイズは1合(180ml)のみとなります。3本セットに発売記念の猪口が付いています。
純米酒 SHUSHU 180ml 324円(税込)
印象 甘口 スッキリ 低アルコール
大学生の日本酒研究会が行った調査で、大学生が最も好んだ組み合わせが「甘口 スッキリ 低アルコール」だったそうですが、それをそのまま実現したかのようなお酒です。ネーミングとフレンチテイストのボトルからはワイン的な香味が想像されますが、実際は「日本酒」テイストで、発泡性もありません。
口に含んだ第一印象は甘味、次に酸味です。いずれもバチッとした刺激があるものではなく、マイルドで口当たりの優しいものです。一方、スッキリとは言っても淡いうすいではなく、甘味をベースに酸味を合わせた旨みの質感が充分に保たれています。香りは際立った特徴はなく、淡く果実的でもあり穀物的でもある香りです。このあたりは全く純米酒らしい印象で、後味も果実的な酸味のゆっくりとしたキレで、尖ったところはありません。10.5度という低アルコールと相まって飲みやすく、味わいもある仕上がりです。
キャッチフレーズの「食事がすすむ。クセのない飲みやすい味わい」が適格な表現です。まず料理、次にお酒という組み立ての「お酒」の部分に「日本酒」を持ってこようというコンセプトで、まず「お酒」という場面に適応するものではありません。
特徴 特許取得 独自の低アルコール酒製造法
低アルコール日本酒の開発は30年来続いており、その手法としては加水によるもの、逆浸透膜や減圧蒸留によるアルコール除去、新規酵母の開発などがありますが、現在の主流は浸透膜によるアルコール除去と新規酵母の開発になっているようです。一方、このお酒は加水によってアルコール濃度を低下させたもの。このアルコール度まで加水すると香味のバランスが崩れてしまいそうですが、沢の鶴はこの製造方法で2013年に特許を取得しています。その内容は「アルコール分が低くても味わいのバランスを崩さず、日本酒本来のコクや味わいを持った日本酒の製造法を提供する」という課題に対して「麹歩合を30~50%とし、さらに掛米の精米歩合を65%以上にすることで、アミノ酸や糖分、有機酸を含むアルコール分18~20度の日本酒の原酒を製造するステップと、前記原酒を割り水によりアルコール分11.5度未満に調整するステップとを含む」製造方法の開発というものです。具体的には麹歩合を高めることと低精米の掛米によってアミノ酸、糖分、有機酸を多く含む原酒を造り、加水(割水)の段階で、アミノ酸度、酸度、グルコース濃度を所定のターゲットに納める手法および醪の発酵温度の調整経過を意味するもののようです。なお、酒母はつくらず酵母仕込みによっています。
こうして造られたこのお酒のスペックは、
特定名称区分:純米酒、
アルコール度 10.5度、
日本酒度 -10.0
酸度 1.5
アミノ酸度 1.2
精米歩合 麹米65% 掛米75%
甘辛度 中口(計算したところ0.786 計算式193593/(1443+日本酒度)-1.16×酸度-132.57
仕込水 宮水
今年創業300年の大手メーカー
1717年(享保2年)創業で今年300年を迎えます。元は米屋の副業として酒造りに取り組んだのが始まりです。大手酒造メーカーの一つで出荷量は全国10位くらいですが、純米酒の売上は1位だそうです。灘五郷のうち西郷(別名、新在家郷)神戸市灘区新在家に四季醸造蔵の瑞宝蔵と季節醸造蔵の乾蔵を持っており、西宮市に宮水井戸を持っています。乾蔵は阪神大震災で倒壊した蔵の代替として突貫工事で建設したもの。平成27酒造年度全国新酒鑑評会では両蔵とも金賞受賞。特に瑞宝蔵は純米大吟醸での受賞でした。純米の出品酒は毎年造っているそうですが、昨年度は純米大吟醸の出来が良かったため出品して、見事受賞となったそうです。
ところで、本年イチオシのSHUSHUも、コンビニやスーパーでなかなかお目にかかりません。そのあたりを伺うと、「うちは営業力が弱いので」ということだそうです。
神戸市灘区新在家南町5丁目1番2号