櫻正宗「櫻正宗 茅渟の海 自社種麹 生酛造り 純米吟醸」R2BY 兵庫県神戸市

灘魚崎郷の名門蔵、櫻正宗さんの「櫻正宗 茅渟の海(ちぬのうみ) 自社種麹 生酛造り 純米吟醸」です。自社種麹というところが特徴ですが、特約店のみの販売チャンネルで、直営店での販売もないようです。たまたま、販売イベントで出会って購入しました。
櫻正宗 茅渟の海 自社種麹 生酛造り 純米吟醸 720ml 1,993円(税別)

[Sakuramasamune Chinuno-umi orginal yeast kimoto-tsukuri Junmai-ginjo] Brewery:Sakuramasamune Brewery, Hyogo pref, Kobe city, Specific designations:Junmai-ginjo-shu, Variety of raw rice:Yamadanishiki ,Degree of rice polishing:60% , Pasteurize:pasteurized ,Yeast:Kyokai No.1001 ,Yeast starter:Kimoto method, Alc%:15-16%, Fragrance:green apple, Tast:clear

自社種麹が特徴の純米吟醸

兵庫県産の山田錦を全量使用。このお酒に関しては吉川町の特A地区ではないそうです。精米歩合は60%。麹に自社種麹を使うところが最大の特徴です。種麹については、大手酒造メーカーを含めて麹屋さん5社からの購入が(すべてに近い)ほとんどだと思います。仕込水は宮水で、酒母は伝統の生酛造り。酵母は”おそらく”協会1001号だろうと思います。吟醸酒は10号を使うことが多いそうです。アルコール度は15-16度。

流れ落ちては消える静謐の味わい

穏やかな青い果実の香りがほのかに立ち上がります。口当たりから舌ざわりまで、肌理の細かい滑らかさが灘の生酛らしいところ。舌の上に乗った落ち着いた酸味と透明感のある甘味が、あれこれとはしゃぐこと無く、そのまま流れ落ちては消え去ります。尖ったところが皆無なバランスの良さと静謐感の一方で、確かな味わいを感性に残しながら、これも穏やかなキレに完結します。いかにも櫻正宗らしい、「上品」という言葉に相応しいお酒です。ワイワイ飲むお酒ではありません。一人静かに味わいを深めてください。

櫻正宗の名を轟かせたのは宮水の特性の発見。その元になった宮水井戸場。

櫻正宗に自社種麹があるわけ

清酒醸造に使う種麹は、主要5社がほぼ全量を供給しています。この五社は秋田今野商店、日本醸造工業、ビオック(旧・糀屋三左衛門)、菱六、樋口松之助商店、ここに神戸の今野もやしさんが入るぐらいかと思います。灘地域や兵庫県内では、地域性から考えると大阪にある樋口松之助商店さんが圧倒しているのかと思うと、そうでもなく、秋田県の秋田今野商店さん(空襲を避けて疎開するまでは神戸市・御影にありました)やビオックさんもよく見かけます。いずれも社名は古風ですが先端バイオ企業です。そのなかでオリジナルの自社種麹を保存している例はたいへん珍しく、私は他の例を知りません。酒蔵の方に伺うと、「麹の櫻正宗と言われるほど、製麹に力を入れてきた」そうで、1625年創醸以来の歴史のうえで、このお酒が存在する理由があったのかと納得しました。江戸時代の微生物の保存方法なども面白く。いずれご紹介できればと思います。

現在、唯一の醸造蔵である平成6年(1994年)竣工の櫻喜蔵

先行して進む麹菌の研究

モノが微生物だけに、性質変化は避けがたく、それをどのようにコントロールするかの問題が付きまとうそうで、酒造シーズン前にはメーカー各社からデータが酒蔵に示され、それらを元にそのシーズンに使う、酒質ごとの種麹が決定されるというお話も伺いました。
ところで、麹菌に関する研究は酵母に先行して取り組まれ、2005年には全ゲノムシーケンスが完了しています。これは、「50年ほど前,A. oryzaeは,カビ毒であるアフラトキシンを生産するカビであるA. À avusと同一種であるという欧米の分類学者の指摘により,我が国で使用されている麹菌の悉皆調査が行われ,アフラトキシンを生産する麹菌は皆無であるという研究がなされた」(北本勝ひこ著「麹菌物語」生物工学基礎講座 バイオよもやま話)という歴史的理由があるように思います。この当時、日本で発展した発酵文化を守ろうと、官民が全力を傾注してすべての黄麹菌の調査研究に取り組んだそうです。

「茅渟の海」(ちぬのうみ)

ところで、「茅渟の海」というネーミングですが、これは瀬戸内海のうち大阪湾を指す表現で、ラベルの説明になるように、灘地域ではよく知られた名前です。私が卒業した学校の校歌にも「見はるかす茅渟の浦波」という歌詞があったように記憶しています。

「茅渟の海」の一風景。宮水地帯の南に位置する西宮ヨットハーバー

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