灘酒研究会・酒質審査委員会が認定する2019年「灘の生一本」プロジェクトに参加した灘五郷のうち魚崎郷にある櫻正宗さんが認定を受けた純米酒です。「灘の生一本」では歴代一番の出来という、兵庫県産の山田錦を使った芳醇な一本です。2019年9月製造。
櫻正宗 灘の生一本 2019年認定 720ml 1,331円(税10%込)
山田錦を速醸酛で
原料米は兵庫県産山田錦。櫻正宗さんのお酒の山田錦の表示は「兵庫県産」と「吉川産」があります。兵庫県三木市吉川町は特A地区で、吉川表記は大吟醸などに使われており、兵庫県産表記の場合は別の地区の山田錦が全部または一部含まれているのかも知れません。精米歩合は70%で仕込水は宮水。酒母は速醸酛で酵母は協会701号です。アルコール度は15度以上16度未満、
これまでで一番の出来
灘の生一本プロジェクトに参加してきたなかで、「社内的には、これまでで一番の出来じゃないかという話になっている」という1本です。認定表記は「キレ味の良さと米のふくらみを感じるお酒であることを認定します」。酒質審査結果は甘辛は「中」、濃淡も「中」、かおりは「おだやか」となっています。
まず、香りは米の、あるいは穀物の香りがおだやかに香ります。温度の対応は、雪冷え(5℃)と熱燗(50℃)以外広く適温とされていますが、いずれの温度帯でも味わいの立ち上がりは早く、冷温では角のない酸味が立ちながら、米の甘味とともに比較的硬い質感の膨らみとなります。ひややぬる燗では酸味と甘みがバランスして、流れるような広がりを見せ、高めの燗では流れが早くなります。あれこれと変転しないストレートで豊かな味わいを貫いて、おだやかなキレに結びます。力強さもたおやかさも併せもった、「灘の生一本」らしい逸品です。
灘の生一本プロジェクト
100年以上の歴史をもつ灘酒研究会は灘と近隣の酒蔵の醸造技術者が、企業の枠を超えて結集した組織で、その中につくられた酒質審査委員会がこの「灘の生一本プロジェクト」を実施しています。その目的は「醸造の専門家として酒質の審査基準を制定。プロファイリング法による酒質評価と、灘を代表する技術者達の経験に基づく評価の両面から厳しい審査を行い、今まで各社の自主判断で行ってきた味と香りの表現を統一、認定」するというものです。味わい、香りタイプに加え、味覚表現項目は味について26種、香りについて13種の統一基準に照らし合わせて、「官能評価」「認定協議」などが行われ、記載可能な酒質表現と評価が決定されます。従って、いわゆるコンテストではありません。
元記事 沢の鶴「沢の鶴 灘の生一本 2019年」30BY
5つのアイデンティティー
「創醸1625年」「清酒『正宗』の元祖」「協会1号酵母発祥蔵」「宮水の発見蔵」「高精白米の先駆者」という5つを、最近は押し出しているようです。創醸の件は別にして、 「協会1号酵母発祥蔵」「宮水の発見蔵」 の二つはこの名門蔵の歴史を示すアイデンティティーとして知られていますが、残りの二つは新たに加えられたようです。
伊丹・荒牧村で1625年創醸
「創醸1625年」・・元は摂泉十二郷のうち伊丹郷の荒牧村で山邑家が創醸。純米大吟醸「荒牧屋太左衛門」に名を残しています。後に灘に移っています。
「清酒『正宗』の元祖」
「清酒『正宗』の元祖」 ・・元のブランド名はただの「正宗」。この名の江戸下り酒で一世を風靡します。ところが明治になって、商標登録しようとしたところ、もはや清酒に付けられる「正宗」の名称は一般名詞化しているとして認可されず、逆に「櫻」を付けてはどうかと打診され、「櫻正宗」となった経過があります。そう言えば、全国で●●正宗は数多くありますが、灘では櫻正宗と菊正宗、現在は大関傘下の扇正宗くらい。特に嘉納本家の菊正宗とは住吉川を挟んで目と鼻の先にあり、白鶴嘉納家を含む3家で灘中学・高校を開学するなど深い関係もあり、納得できなくても遠慮があったのかも知れません。
「高精白米の先駆者」
「高精白米の先駆者」 ・・江戸時代中期以降に江戸下り酒で、灘酒が伊丹をはじめ摂泉十二郷を圧倒した理由には、宮水の発見、海運の利便、生酛など技術の確立、高精白の達成があげられますが、六甲山系の急峻な斜面を下る急流を利用した水車精米が従来の足踏み式に比べ、大きなアドバンテージを持っていたことが知られています。この高精白による酒が大消費地である江戸のニーズに合っていることにいち早く目を付けたことを意味すると思いますが、 「協会1号酵母発祥蔵」「宮水の発見蔵」のような、はっきりした物証や文証があるわけではなく、灘酒全般の歴史的な展開のなかの話かなと思います。