灘・御影郷の白鶴酒造さんが秋も深まった季節に限定で蔵出しする弓弦羽シリーズのうち純米バージョン「白鶴 弓弦羽 純米」です。直営店・ネットのみの販売になります。「弓弦羽」の名は神戸市東灘区御影にある弓弦羽神社から採ったもの。白鶴さんの酒造りの色合いを明確に出した特徴のあるお酒です。2018年11月製造。
白鶴 弓弦羽 純米 720ml 2,160円
日本酒度-16の表現を味わう
特定名称表示は「純米酒」で精米歩合は70%です。使用米は国産米としか表示されていませんが、「いろいろ使っている」というお話です。70%精米でこのお値段は特A山田錦でも十分賄えるもので、コストは考えず各段階で最適な麹米と掛米を選んだのでしょう。酒母は速醸で酵母は自社酵母と考えます。アルコール度は16度、日本酒度は-16というもの。酸度は1.7、アミノ酸度は1.3となっています。日本酒度-16という甘味をどのように表現しているかが、このお酒の味わいどころです。今年の「弓弦羽」ブランドは純米吟醸酒との2つがラインナップされています。
この甘味こそ白鶴らしさ
香りは清冽にしてほのか。飲み口を綺麗に整えます。口当たりは滑らかなもので、濃厚な甘味は雑味を感じない美しい姿です。この甘味はくどくなることなく、爽やかで果実的な酸味と合わさって、優しい旨味に転化します。この優しさに溢れた味わいがこのお酒の真骨頂で、周辺に配置される少しの苦味を伴いながら穏やかにキレて、比較的短い後味を残します。(昨今ありがちな)酸が甘味に被さることなく、杯を重ねてもバランスを崩さないところが「白鶴らしさ」と言うべきでしょう。私は白鶴の特徴は「地味に驚くべき甘味の美しさ」だと思っています。
弓弦羽の本質を感じて欲しい
「弓弦羽神社」は神戸市御影にあり、白鶴酒造だけでなく、灘の多くの酒蔵が氏子になっています。昨年はフィギアスケートの羽生結弦選手と名前が似ていることから有名に、さらに昨年デビューしたこのお酒も話題になりました。しかし、私はこのキワモノのような扱かわれ方が残念なことに思われてなりません。その理由はこのお酒の成り立ちにあります。
この規模の酒造メーカーでの新しいブランドや製品はマーケティングが先行して、その要請に従って酒質が設計されますが、「弓弦羽」は製造部門からの提案で製品化されたもの。当然、設計も製造部門の意思が反映したものになります。提案の理由は、「ヘビーユーザーではなく、20歳代30歳代の初心者や女性、外国人にとって日本酒の入り口となりやすいお酒」というものであったようですが、実は「持てる技術を使って、これぞ白鶴という酒で、現在の日本酒市場にアンチテーゼを突きつけたい」というのが本音ではなかったかと思います。
造り手が造りたいと思って造った酒
こう思うのも、昨年のブランド立ち上げに際したインタビューで、伴光博製造総括責任者は「白鶴は販売数量ではトップレベルと認識されているが、技術ではトップレベルと思われていない。これを打破したい」と言い、全国選抜清酒品評会(日本酒造技術研究連盟主催)で1位(2016年の第50回全国選抜清酒品評会)を獲得するなど、社内的にも製造技術への信頼が高まった結果、製造部門の提案が通ったというものです。昨年は大吟醸、純米吟醸、純米を製品化し「予想以上に良い酒を造ることができた」もので、特に大吟醸は「杜氏さんや製造技術者などプロに飲んでもらいたい」と自信のほどを語っています。
弓弦羽は「ど真ん中ではなく、コーナーぎりぎりをねらった」もので、「造り手が造りたいと思って造った酒」と表現されていました。
ただし、今年は大吟醸は発売されません。営業の方によると、「高過ぎて(4,320円)売れなかった」そうで、残念至極な話です。