兵庫県姫路市安富町の下村酒造店さんが昨年から販売している「奥播磨 兵庫県委託試験醸造酒」です。兵庫県開発の兵庫錦を使っての酒造という兵庫県のプロジェクトの委託を受けて醸造されたもので、酒造年度は29BYで熟成の後、平成30年10月19日に蔵出しされました。
奥播磨 兵庫県委託試験醸造酒 720ml 1,719円
兵庫錦に9号酵母を組み合わせて
使用米は中心の命題である兵庫錦。竜野市御津町産です。精米歩合は55%の純米吟醸酒です。酒母は速醸で酵母は協会9号です。アルコール度は17.1度で日本酒度は+2.0。酸度2.0、アミノ酸度1.9と吟醸酒としては高い値になっています。
荒々しさと強い味わい
吟醸酒ですが、香りはほのかなリンゴの香りです。口に含むとすぐに、力強い酸味としっかりした甘味、そして渋味、辛味、苦味が一気に広がります。それぞれの味わいははっきりと密度の濃いもので、それぞれが荒々しさ伴いながら流れます。生酒ですので、冷蔵庫で保存していますが、冷えた状態では荒さが目立ち、常温に近づくと口当たりは柔らかに、味わいが一体化した旨味に進みます。若干、香りが後退しますが、やはり、常温あたりが飲み頃かと思います。酸味はフルーティなリンゴ酸とコハク酸、温度が上がると乳酸系が勝る印象です。キレはゆっくりと、舌に辛味と喉に渋味を残して、比較的長い後味を引きます。
ホームページやラベルの表示は「濃厚な旨味が十二分に感じられる」「柔らかな甘味としっかりとした旨味が特徴」というものです。
兵庫錦 高い製麹特性
「兵庫錦」(2008年農林水産省品種登録)は酒米新品種育成研究委託事業として兵庫県立中央農業技術センター(現・兵庫県農林水産技術総合センター)で「兵系酒79号」として開発された新種の酒米です。系統は「山田錦・西海134号F2」の短悍個体と山田錦を交配したもの。西海134号はシラヌイと山田錦を交配したもので、山田錦の系統を色濃く引き継ぎ、ラベル表示では「山田錦の血を87.5%受け継いでいます」となっています。兵庫錦の開発目的は「温暖化条件化でも高品質な酒米の育成」というもので、その特徴は山田錦より短悍で耐倒伏性が高く、晩成種で収量性が高い。酒造適性としては「製麹は酵素力が高く、もろみは酸やアミノ酸が山田錦よりやや多い。酒質は香りがやや少ないが、味がある」(論文 酒米新品種「兵系酒79号(兵庫錦)」の育成と試験醸造製品の開発)となっています。
海外輸出を狙う事業
この兵庫錦を使った実際の醸造については、農林水産業の競争力を強化するため、各地の酒米の生産拡大と日本酒の輸出倍増を狙う国事業の一環として取り組まれたもので、県産酒米で造った日本酒の海外輸出に注力しようというものです。兵庫錦を使ったお酒は以前から散見していましたが、継続的に製品化しているところは限られているようです。