灘五郷のうち今津郷にある大手メーカー、大関さんの「大関 純米大吟醸 十段仕込」です。通常三段で行う仕込みを十段にするという手間と時間をかけた特別な純米大吟醸。4号瓶より小さい700mlサイズですが、量換算では大関では最も高価なお酒となります。平成29年12月製造。
大関 純米大吟醸 十段仕込 700ml 5,118円
醪は50日に及ぶ十段仕込み
原料米は大関契約地区で育てられた兵庫県産山田錦を全量使用。精米は40%です。酒母は速醸で酵母は自社酵母。醪は名前のとおり十段の仕込みです。醪日数は50日に及ぶというもので、留添の後、連続してということではではなく、醪の経過を見ながら麹米、掛米を要所に投入していくというもののようです。屈指の大手メーカーですが、このお酒は「そんなに売れるお酒ではない」ため、小さな仕込みを年一回だけ行います。アルコール度は16度以上17度未満。酸度1.9で日本酒度は-30に及んでいます。
深い奥行きの濃密な甘味
滑らかながら密度の高い濃厚な甘味が特徴のお酒。わずかに黄金色がかかる透明感のある色合い。イソアミル系の甘やかな果実香がやわらかに立ち上がります。舌触りはとろりとしたキメの細かい肌ざわりが第一印象で、質感のある濃密な甘味が口中全体に膨らみます。日本酒度が-30なので、甘味は予想の内ですが、濃厚な甘味のお酒によくあるザラリとした感覚とは反対の絹のような美しさが特徴です。1.9と比較的高めの酸も荒いところなく、清澄なキレ味に寄与します。この2つが味わいの中心ですが、これが単純な味わいとならず、甘露な甘味と酸味のグラデーションを創り出し、深い奥行きの味わいに到達するのが、このお酒の真骨頂でしょう。精米40%という大吟醸で、汲水もそんなに詰めないで、仕込の微妙なコントロールでこの酒質を実現するのでしょうか。
日本酒を飲みつけない人に、「おいしい」と言わせるにもってこいですが、マニアも納得させる説得力があります。
2年の開発期間をかけ、平成2年に発売
大関によると「酒造好適米の最高峰といわれる山田錦の持ち味を最大限に引き出すため10回もの仕込みを行い、通常の2倍以上の時間をかけて丹念に醸した純米大吟醸酒」で、「商品開発までに2年の月日を費やし、伝統ある丹波杜氏の卓越した技術と技、今までにない新しい製法」となっており、平成2年に発売されました。「今までにない新しい製法」の中身はよくわかりません。近くに住んでいるので、お話を聞く機会は多いのですが、概して大関さんはあまり製造工程の詳細を語らないように思います。「超」のつく高級(高価格)酒をほとんど販売しない酒蔵ですが、「ワンカップ」とは全く違う大関の一面を見る思いがあります。
パーカーポイントでの評価
格別の複雑さと個性-すばらしい日本酒
また、ワインの世界的格付け会社として知られるロバート・パーカー・ワイン・アドヴォケートが、はじめて日本酒の格付け評価を行ったものが2016年9月1日に発表され、このお酒が100点満点中92点を獲得したそうです。その評価は「格別の複雑さと個性がある、すばらしい日本酒」だそうです。
ところで、この発表の一覧を見たところ、一本一本は「なるほど」と思いますが、全体を見ると「なんでやねん?」となります。それは、方向性の異なるお酒がたくさんあり、「こんなお酒」という一般化ができないことが理由です。ワインに限らず、一流の評価者の「鼻と舌の感覚はすごい」と聞きますが、同時に評価の考え方や感覚の違いにも興味が涌きます。
“特殊なカテゴリー”と見ない目も必要なのか
この「十段仕込」も、ワイン文化に親しんだ感覚からはこうした評価されるのでしょうか。それは不思議とかいうことではなく、日本酒に親しんだ香味の感覚からは、このお酒を「特殊なカテゴリー」というチャンネルで見てしまいがちになります。しかし、先入観なくグローバルな「酒」として見た場合には、キメ細かい滑らかさや奥行きの深さ、後口の余韻の充実感への評価は共通ということでしょう。