日本盛「燗酒 ボトル缶」R1BY 兵庫県西宮市

灘・西宮郷の日本盛さんが2017年10月に「業界初、ホット販売専用の日本酒」として発売した180mlの「燗酒 ボトル缶」です。飲料用加温器販売専用の日本酒というコンセプトで、長期間の連続加温に耐えて劣化を最小限にするというもの。「全国のコンビニや駅ナカ売店などを中心に販売」となっています。実際はほとんど見かけることはありませんが、一方で革新的な技術が用いられています。
燗酒 ボトル缶 180ml 250円
常温での小売やネットでは流通していません。必ず加温状態での販売になっています。

[Nihonsakari Hot Sake Can 180ml] Brewery:Nihonsakari, Hyogo pref, Nishinomiya city, Specific designations:no, Variety of raw rice:not open, Degree of rice polishing:not open, Pasteurize:pasteurized ,Yeast:new development original, Yeast starter:not open, Alc%:14-15% ,Fragrance:straw,Taste:rich

新開発酵母と独自技術

特定名称表示はない普通酒で醸造アルコール、糖類が添加されています。原料米種は不明、精米歩合も不明です。酒母も酒母省略かどうかも含めて不明。酵母は酒類総合研究所と共同研究した協会701号をベースにした新酵母で、「老香」を発生させにくい酵母。仕込みはメイラード反応を抑制する新技術を用いたもの。濾過も限外濾過であろうと思います。アルコール度は14度以上15度未満、日本酒度は+7.5ととりわけ高い値となっています。ボトリングは窒素充填で、数年前から開発を続けている「ボトル缶」の様々な技術が用いられています。

家庭で燗をし直す場合は別容器に移してください。

旨・甘・酸のはっきりした味わい

透明・清澄な色沢。香ばしいほのかな香り。もちろん燗ですが、若干高めに設定しました。口当たりから立ち上がり早く旨味と甘味が厚みをもって膨らみます。この周囲を適度な酸味が包んで、形が崩れることがありません。複雑な香味の構成ではありませんが、輪郭のはっきりした味わいです。最後は酸味でキレて後を引かず、綺麗な余韻を残します。

DMTS-P1低生産性酵母

新酵母は「老香」の原因物質であるDMTS(ジメチルトリスルフィド)の前駆体であるDMTS-P1の生産を抑制するというもの。独立行政法人酒類総合研究所と日本盛の共同研究によるもので、協会701号を親株としたこの酵母は「老香前駆体低生産性酵母mde-D1」として日本醸造協会から令和2年3月31日まで、当該期間の試験醸造を条件として試験販売されています。

(独立行政法人酒類総合研究所研究開発評価委員会 各研究課題の年度評価及び助言報告書 R1/6/17)
・DMTS-P1低生産性酵母の育種
これまで、清酒の貯蔵劣化臭、老香の主成分がジメチルトリスルフィド(DMTS)であること、ならびにDMTS-P1と名付けたDMTSの前駆体を酵母が生産することを明らかにしている。これらの知見をもとに、清酒メーカーとの共同開発でDMTS-P1低生産性酵母実用株を突然変異株から取得する方法を開発し、醸造特性を確認するとともに、特許を出願した。また、突然変異株と同じ変異を持つ清酒酵母をセルフクローニング法により育種し、小規模の仕込み試験により、硫黄様のにおいや老香が親株に比べて育種株で大幅に減少する一方、醸造特性や製成酒の成分値はほとんど差がないことを明らかにした。
突然変異株については共同研究先から、ホット販売専用の清酒という新しいコンセプトの商品が発売された。
さらに、製造場での実用性を確認するため、製造場や醸造条件の異なる実地醸造試験を行うなど、普及に向けた検討を進めた。

さらに詳しい内容は日本盛ホームページ「「老香(ひねか)」の元となる成分を作りにくい酵母の研究成果を日本農芸化学会大会で発表」に掲載されています。

メイラード反応抑制の仕込み

もう一つは「連続加温を可能にした独自の仕込み技術」というもので、「独自の仕込み技術によりメイラード反応を抑制することに成功」となっています。こちらの詳しい内容はわかりませんが、日本酒度+7.5という値に意味があるのではと思っています。メイラード反応とはアミノ-カルボニル反応ですので、想像するところでは醪末期の糖を極限まで食い切ったものや限外濾過によって反応の元となる糖、アミノ酸や酵素を除いたものに必要となった味の調整を特殊な糖類を添加することで行ったものではないでしょうか。

長期熟成酒の地平を開くのか

このお酒の連続加温機を見たことは、日本盛の直売所を除いてはありませんし、必要とするシチュエーションが思い浮かびません。営業的に成功したか、どうかなとは思います。しかし、酒造業界で大手メーカーが負うべき責任を果たしたものではないでしょうか。今後の長期熟成酒の貯蔵や開発・商品化において、新基軸となる技術になるのではと期待しています。

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