2015/9/29投稿記事 灘、御影郷の劍菱酒造さんの「瑞穂黒松劍菱」です。製造年月は平成27年8月。寒造りの蔵ですが、このお酒の性格上、迷った末に27BYとしました。
特徴 独自の山廃造りが際立つ
なぜ今さら劍菱か?というには事情があります。ある但馬杜氏さんとの出会い。「劍菱飲んでる?」「えっ?永らく飲んでませんけど」「劍菱旨いよね。勉強になるよ」という会話から、改めて飲んでみることにしました。
アルコール度は17.5度、原材料は米(国産)米麹(国産米)という必要記載事項以外のスペックは非表示。精米歩合は米により年により変えていて、それらをブレンドしているため、表示不能。酒質「濃醇、円熟」と書かれています。
わかる限りのことを挙げると、山廃造り、酵母は蔵付酵母、水は宮水、米はおそらくほぼ山田錦と一部愛山(これは全部山田錦かも知れません)です。最近人気の愛山が存在するのは劍菱さんの努力の賜物です。
印象 この濃厚な味わいは劍菱の世界
お味はほぼ「古酒」或いは「低精米」のような濃厚な味覚。この「瑞穂黒松劍菱」は2年以上の熟成酒のみのブレンドですが、3年熟成以上の酒の熟成感がある一方、香りも立っています。劍菱と言えば「辛口」と称されますが、どうしてどうして、私には濃厚な甘みとそれを切っていく酸の力強さを感じます。「辛い」とは全く違う、もうこれは劍菱独自の世界です。
複雑で深い味わい。例えば、無人島に一人住むとして、持っていくのはこの酒かも知れない。実際、先入観を排除して飲むと、どうしようもなく旨いんです。
木製道具を守る伝統手法
灘御影郷に4つの蔵を構えています。いずれも近代的な建屋で、間に挟まれた道路の上には蔵をつなぐパイプが通っている。温度管理も完全にできそうですが、年間醸造ではなく寒造りです。先ほどの杜氏さんが言われた「勉強」とは山廃造りのこと。その特徴は自社で製作する木製の暖気樽に代表される伝統手法。酒母に沈めて温度を上げるわけですが、「酒母を掻き混ぜない。当然、温度差の層ができる。そうすると酵母の発酵にも差ができる。あえて、微生物が自ら作りあげる世界に任せるんだ」というお話でした。本当に混ぜないかどうかは知りませんが、そうした話を納得してしまう独自の世界観、灘五郷のなかでも別世界に生きる印象のある蔵です。
歴史と伝説があふれる
創業は摂泉十二郷の伊丹で1505年(永正2年)創業と2.3を競う伝統。「赤穂浪士が討入を前にして飲んだ酒」という伝説や将軍御前酒という記録に彩られた歴史が一般受けするのと逆に、マニアには一種の反発があるのかも知れません。
しかし、江戸時代の酒もかくやと思わせる味わい。その味をブレンダーによるブレンドでいつも同じ味をつくろうとする独自性。蔵見学などありそうもなく、蔵元直売ショップもない閉鎖性。この蔵の中では何が起こっているのだろうと思わせる神秘性など、興味は尽きません。
酒は蔵元で買うポリシーなのに直売が無いため、9月27日開催の「加東市 山田錦 乾杯まつり」の出店ブースで購入しました。加東市は山田錦を開発した旧兵庫県農事試験場の所在地です。
瑞穂黒松劍菱 720ml
神戸市東灘区深江浜町53番地