2015/8/23投稿記事 姫路市林田町にあるヤエガキ酒造さんの「純米大吟醸 青乃無」です。「無」というシリーズのなかのアッパーミドルクラスになるお酒です。
但馬杜氏らしい綺麗な純米大吟醸
このお酒は麹米には精米50%の山田錦、掛米には同じく50%精米の五百万石を使用。麹歩合は22%です。アルコール度は15%と加水調整あり。酸度1.5、アミノ酸度1.2、日本酒度は+1と表示されています。火入れです。酵母は9号系自社酵母だそうです。
バランスを重視した淡麗でドライ
こちらの蔵のお酒は「軽やかでフルーティな香りの中にしっかりと味があって、キレがよい」と紹介されており、この「青乃無」は「もっともバランスよく作られている」と表現されています。まず、この紹介のとおりだと思います。9号系酵母なので、最近の高エステル生成系酵母に比べると、さすがに香りはおとなしいです。旨みもパッと広がりますが、すばやくキレて余韻は残しません。味も厚みのある濃醇なタイプではなく、淡麗でドライなスタイルです。酸もスペックより弱く感じます。同じ但馬流の杜氏さんが造った山田錦38%精米の大吟醸と飲み比べて見ても、かなり淡麗と感じます。こちらの杜氏さんは、但馬杜氏のリーダー的存在であり、「現代の名工」にも選ばれた田中博和杜氏。この味わいは酒蔵のコンセプト、センスなのでしょう。純米大吟醸としては最近のトレンドではない印象もありますが、アメリカでは好まれるのかも知れません。
LosAngelsに蔵を持つ酒蔵
このヤエガキ酒造さんはYAEGAKI Corporation of U.S.Aという子会社を持ち、LosAngelsで日本酒を製造しているという、月桂冠、大関、宝酒造の大手以外では唯一の蔵でもあります。この「青乃無」(現地生産では無く輸入販売)の紹介も「Fluity,dry and perfectly balanced」で、主力商品のようですから、やはり、そちらでの販売拡大に注力する方向性があるのかも知れません。
アメリカではカリフォルニア米を使いますが、「とにかく固い米」だそうで、麹づくりなどで国内とは技術的な違いがあるようです。また、「ドライな酒しか売れない」というお話。食べるものの違いを考えるとうなづけますが、海外市場を展望すると、今後、全体的にそういう酒質に向かいのでしょうか。
なお、試飲した他の純米吟醸や純米のお酒は濃醇なスタイルでした。燗に向く純米や特別純米酒なども看板酒で、米も山田錦、五百万石以外に杜氏さんの出身地で作られる兵庫北錦や雄町なども使われています。
こちらの酒蔵は、通常蔵見学は受け付けていないので、今回、酒造組合とタイアップしたバスツアーに参加しました。おそらく準大手クラスの蔵という規模ですが、製麹は蓋麹法で手作業を重視。酒造りも寒造りのみという伝統的スタイルを守っています。一方、酒母や醪の生産施設は酒造季節以外でも冷房を入れて温度管理されています。また、醪のタンクは床下に設置。これは、醪が基本的に酸素欠乏状態(吟醸などは特にそうでしょうが)で酵母を発酵させるため、誤って落下すると蔵人の命に関わることから、不安定な足場作業を避けるという労働安全衛生上の配慮から床下に埋め込んであるそうで、最近はよく見かけます。
伝統的な酒造りに取り組む一方、近代的な技術も導入しつつ、海外展開も先駆けているという播州地方を代表する酒蔵でした。
「純米大吟醸 青乃無」720ml 定価2,781円
兵庫県姫路市林田町六九谷681
JR姫路駅前に直営店があります。