菊正宗酒造「菊正宗 純米樽酒」28BY 兵庫県神戸市

瓶詰樽酒では75%のシェアを持つ菊正宗酒造さんの「菊正宗 純米樽酒」です。この樽酒は2017年9月に、瓶詰樽酒発売50年を機に、従来の本醸造酒から純米酒に切り替わりました。2017年12月製造。スーパーやコンビニでも購入できますが、これだけの手間(生酛)と時間(貯蔵)をかけた酒がこの値段というのは驚きます。
純米樽酒 720ml 996円

[ Junmai-shu Taru-Sake ] Brewery:Kikumasamune Brewery ,Hyogo pref ,Kobe city, Specific designations:Junmai-shu, Variety of raw rice:unknown, Degree of rice polishing:70%  Pasteurize:pasteurized  ,Yeast:Kikumasa-LA ,Yeast starter:kimoto-method, Alc%:15%  Fragrance:woody,  Taste: smooth and dry

純米に変更、新酵母も投入

出番を待つ吉野杉でつくられた酒樽

原料米は100%国産米となっています。価格と従来の組合せから考えると、麹米には五百万石など酒米、掛米には一般米でしょう。精米歩合は70%。酒母は菊正宗伝統の生酛で、酵母はキクマサLA酵母。昨年9月に「本醸造樽酒」から「純米樽酒」に切り替わるのに合わせて、従来のキクマサ酵母に変わって、このお酒用に新開発された酵母が投入されました。LAとはLOW ACID の略で酸の生産が抑制されています。アルコール分は15%で日本酒度は+5.0となっています。上槽の後、澱引き・濾過・火入れをして酒質が整うまで熟成。その後、吉野杉の4斗樽に7~10日詰めて、さらにタンクに戻して貯蔵し、火入れ・瓶詰したものです。よくあるチップでの香りづけなどはしていません。

吉野杉香るスムース・ドライな生酛酒

第一印象はスムースでドライです。上立香から含み香を通して、圧倒的な木香、杉樽の香りが貫き、この香りが全体の印象を決定しています。生酛らしい質感とキメ細かく滑らかな舌ざわり。甘味と酸味が目立つことなく支え、渋味や苦味は抑制されています。このあたりに新開発の酵母の意義があるのでしょうか。純米酒ですが、重いところも、尖ったところもない清澄な、一方、確かな味わいを持ったお酒です。料理に歩調を合わせながら盃を進ませます。

酒樽も自社製造で1回使いきり

「蔵開き」での酒樽づくりの実演。竹の「たが」を力いっぱい打ち込む。

かつては灘五郷にも数多くの樽屋がありましたが、現在は灘区の西北商店のみとなっていて、酒樽の需要を賄うことはできません。このため社内で自製することになり、現在は3人の職人で製作しながら次世代の育成も図っています。
樽の原料は樹齢およそ100年の吉野杉が使われています。吉野杉は「節が少なく木目がまっすぐ通っていて香りがいい」という特徴で、杉材の主要な産地は他にもありますが、以前に専業の樽屋さんに伺ったところ、「秋田杉は香りが低く、九州の杉は油分が多いので使えない」ということでした。節があると酒が漏れるので、枝は若木のときから人工的に払うか密生して植えることで枯らしてしまう必要があり、こうした適性のある材料を得る苦労もあるようです。また、独特の香りは木の中心部にあり、ピンク色の杉材が最も良いそうです。
樽屋さんによると、酒樽としては「2回までは使える」そうですが、菊正宗では1回の製造(1樽で8回転程度)のみの使用です。このため、大量に供給する必要があります。使用済みの四斗樽は味噌メーカーなどに販売されるそうですが、実は、菊正宗のネットショップでも1個5,400円(税送料込み)で購入することができます。

「酒樽マイスターファクトリー」オープン

酒樽マイスターファクトリー入口

昨年、2017年11月に「酒樽マイスターファクトリー」がオープンしました。場所は現在は樽酒の貯蔵場になっている嘉宝蔵四番で、新たに内装などを施してミュージアム風の展示・作業場になっています。従来も人知れず酒樽が作られていましたが、金釘一つ使わず、杉材と竹の箍で作りあげる工程は、「ちょっと真似はできない」と思う見事なマイスターの技で、よそでは見ることのできないものです。
見学は菊正宗酒造記念館で受付
毎日10:00~と14:00~の2回、土日祝は15:00~も
ただし、作業は平日のみ見学できます。いずれも各回先着20名で、案内と解説を受けることができます。

樽酒の研究

樽酒に含まれる成分と効用について、菊正宗酒造研究所で研究が続けられています。その成分については、貯蔵中に杉樽由来の様々な成分、主要にはセスキテルペン類やジテルペン類、ノルリグナン類が清酒中に溶け込むそうです。この中でも最も多く含まれているのがセスキテルペン類で、胃酸の分泌を抑制することで潰瘍の進行を抑える効果や微生物に対する抗菌性、つまり、火落菌の増殖を抑える働きがあるということで、他にも経口投与することにより、精神的ストレス負荷時に交感神経の興奮を抑制する効果があるそうです。一方、冷感受容チャネルTRPA1を活性化する効果があるため、低濃度でも主にのどに対して冷涼感を与えるというのは、何か納得するものがあります。
さらに、ノルリグナン類のセキリンCやアガサレジノールには抗酸化活性があるなど、食品由来の油を洗い流すことで口の中をさっぱりさせる効果や、魚介類由来の旨味を強くする働きがあるということで、樽酒の飲み方を考えるヒントになりそうです。
こうした研究は菊正宗酒造研究所から「樽酒中の成分とその火落菌増殖抑制効果」「樽酒中の成分が口腔内の食品由来油脂に及ぼす影響」「樽酒中の成分が食品の旨味に及ぼす影響」「樽酒の香り」「樽酒が食品由来の油脂や旨味に及ぼす影響」「樽酒中の成分が食品由来の油脂や旨味に及ぼす影響」「樽酒と食品の相性 ~樽酒中の成分が食品の油脂とうま味に及ぼす影響~」「樽酒が食味に及ぼす影響」という論文として2012~2016年の間に、日本醸造協会誌などに発表されています。

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