灘酒研究会・酒質審査委員会が認定する2018年「灘の生一本」プロジェクトに参加した10蔵の一つ。菊正宗酒造さんが認定を受けた兵庫恋錦を使った特別純米酒です。2018年9月製造。レギュラーラインナップの「嘉宝蔵 灘の生一本 生酛純米」とは異なるお酒です。
菊正宗 灘の生一本 2018年認定 720ml 1,170円(外税)
兵庫恋錦を生酛でというプライド
それぞれの酒蔵が特長と個性を競ったお酒を出品する「灘の生一本」において、今年も兵庫恋錦を使用した特別純米酒が出品されました。精米歩合は70%です。酒母は菊正宗伝統の生酛で、アルコール度は16度、日本酒度は+6.5となっています。なんと言っても、現在は菊正宗さんの契約田でしか栽培されていない、この扱いの厄介な兵庫恋錦を使っているのが特徴で、生酛造りとともに個性を演出しています。
甘辛の話ではなく、飲み手を甘やかさないお酒
濃醇ながら鮮烈こそ感じる存在感のある味わい。カカオの香り、流れる酸味、滑らかな舌触り、核となる旨味とコク。飲み手を甘やかさない刺激が特徴のお酒です。山田錦の端正さよりは野性が勝り、荒ぶる(言いすぎか)野生味は燗で見事にまとまって新たな次元に昇華します。確かな米の甘みはベースにありますが、終始表面に現れず、バッサリとキレて、しっかり旨味の余韻を残します。灘酒研究会酒質審査委員会の認定表記は「生酛造り特有の押し味とキレの良さを併せ持つおだやかな香りのお酒であることを認定」というもの。酒質審査結果は甘辛は「やや辛口」、濃淡は「中」、香りは「おだやか」。
兵庫恋錦
「兵系酒18号」
兵庫恋錦の開発名は「兵系酒18号」。山田錦とIM106を交配したもので、1960年代に開発が始まり1972年に品種登録されています。IM106は農林8号を放射線処理してできた大粒種です。千粒重30グラム以上という大粒種で、一見しただけで「ワッ!でかい」と思うほど。これでは倒れそうですが、短悍で悍が太いため耐倒伏性は高くなっています。一方で、いもち病耐性は低いという難点も併せ持ち、一時は400㌶を超える栽培面積になりましたが、栽培の難しさもあって、現在は菊正宗酒造さんの契約田でかろうじて継承しています。
超軟質米
性質では大きい心白の発現率が高いものの、タンパク質含有量が高く、超軟質米で米の溶けも計算しにくく、さらに多少酸が多めになるという話もあります。いずれにせよ、吸水・蒸米から酒母、醪の管理に至る醸造工程それぞれで技術的に扱いが難しい米であることは確かなようです。
88トンという栽培量
兵庫県内の栽培量(平成29年産米検査結果、平成30年3月31日速報値)では88トンとなっており、醸造用玄米としては県内9番目の量になっています。と言っても山田錦の22,209トンとは比べるべくもありませんが。しかし、88トンのうち94.3%が特上、特等の等級と、長年にわたる栽培の熟練と細やかな手入れを感じさせる結果となっています。
醸造技術の研鑽
菊正宗はほぼ毎年、スポットで兵庫恋錦を使ったお酒を発表されています。レギュラーのラインナップにならないのは生産量が限定されるためと思います。総じて、山田錦の後継品種で山田錦を超えられずに消えていった数多くのなかの一つかと思いますが、なぜ菊正宗さんが守り続けているのでしょうか。「難しい米ではあるが、技術的な研鑽の意味も含め、あえて使っている」というお話も聞きました。
剣菱さんと愛山のように、当初は誰にも見向きされなかった米が今や人気品種になるという例もあるので、いつか陽の目を見る日が来るのかも知れません。