2016/2/25投稿記事 最も古い歴史を持つ蔵の一つ、兵庫県伊丹市の小西酒造さんの「白雪 江戸元禄の酒 復刻酒 原酒」。元禄時代の酒づくりを復刻した原酒です。H27.12月製造。
特徴 元禄時代の酒造りを正確に再現
このお酒は小西家に残る酒づくりの秘伝書「酒永代覚帖」に記された元禄時代(1688~1704年)の酒つくりを復刻したものです。特徴は精米88%という低精米。当時の精米は唐臼を使った人力によるものですから、実際はさらに低精米であった可能性もあります。もう一つは汲水歩合で、現在の酒づくりの半分くらいということです。現在は総米の120~135%程度で、高精米であれば更に140~150%程度になりますから、およそ60~70%程度と推察します。この精米と汲水歩合だと、相当濃厚になりますが、これは日本酒度-35、酸度3.3、アミノ酸度3.0というスペックに現れています。アルコール度は18度です。米は山田錦を使っていますから、ここは現代の部分。酒母は生酛で、酵母は蔵付酵母だそうですが、いわゆる「酵母無添加」ではないと思います。
印象 濃厚な甘味あふれる元禄の味
お味は極めて濃厚で甘みが強い。例えるなら味醂?この甘みだけだと飲むのはつらいですが、強靭な酸がこれを補っています。色は濃い琥珀色。渋みや苦味といった部分も生酛らしい味わいを醸して、いかにも「元禄の味」になっています。デザートワインの代わりに好いかも。もちろん食前酒にも。是非試して下さい。ただし、深酒には合いません。
当時の下り酒は江戸まで送るのに1ヶ月程度(江戸時代末で10日程度)かかり、この間に腐らせない(痛ませない)ために、高アルコール度、高酸度のまま出荷され、小売の酒屋で加水して販売されていました。この時代にアルコール度18度まで発酵が進めることができたのかとも思いますが、当時もアルコール度を高める努力はされていたものと思います。往時をしのぶ意味で、水を10%、20%、30%加えた上で試してみました。10%ではあまり変わらず、30%では「村醒め」、40%では「軒醒め」になってしまいますので、20%あたりが適当と思います。
様々な酒に挑む歴史ある蔵
このお酒造りの挑戦のプロセスについては、ネットで日経CNBC「ものづくりの挑人たち」に詳しく掲載されています。低精米のため水を吸わないうえに仕込水が少ないので米が硬い。このため、酒母は3日目にやっと泡がではじめ5日目にやっと米は溶けたが、今度はどんどん温度が上がる。なんとか押さえ込んだものの、次には発酵が進んでも醪の比重が下がらない予想外の状況に。つまり、糖が食いきられないまま、このような甘いお酒が完成したというスペクタクルを知ると、さらに味わいが増すように思います。
小西酒造は天文19年(1550年)、摂泉十二郷の中心、伊丹で創業。寛永12年(1635年)頃には早くも「白雪」の商標を称しています。一時は灘・西宮郷にも蔵を持っていましたが、現在は伊丹市の富士山(ふじやま)蔵に集約されています。写真が富士山蔵ですが、18,000リットルのタンクが60基設置されています。歴代、丹波杜氏の系譜にあり、毎年新酒鑑評価会で金賞を受賞しています。現在も大手であることに変わりはありませんが、麹も多くが手作業で作られているということで、酵母も7種類の自社酵母が使われているそうです。
工夫された蔵見学が楽しい
この写真は、蔵見学での工夫の一つ。麹と酵母が顕微鏡で見られるというもの。米に麹菌がはぜ込んでいる様子や、酵母の方も娘細胞が成長して、母細胞から細胞核が移行しつつある様子などが実際に見ることのできる機会はめったにないので、これは楽しみな企画だと思います。見学の現場では、このコーナーの向かいの、一斗樽を担いで記念写真を撮る方が人気でしたので、マンツーマンの解説をいただきながらゆっくりと見ることができました。蔵見学は蔵開きの企画の一つですが、早くから並んで整理券をGETする必要があります。
白雪 江戸元禄の酒 復刻酒 原酒 720ml 1,800円(消費税別)
なお、「慶長の酒」という江戸時代末のお酒も復刻されています。
兵庫県伊丹市東有岡2 丁目13 番地