山名酒造「千歳 山田錦」R2BY 兵庫県丹波市

兵庫県丹波市の山名酒造さんが、コロナ禍のなかで新たに立ち上げたブランド「千歳(せんさい)」の二種のうち、有機栽培の山田錦を生酛系酒母で造った「千歳 山田錦」です。もうひとつの90%精米という尖ったコンセプトのお酒「千歳 ルネサンス 山田錦 生原酒」は、早々に完売したため、入手できませんでした。2021年6月製造。
千歳 山田錦 720ml 1,980円  残念ながら、こちらも酒蔵完売です。

[Sensai Yamadanishiki] Brewery:Yamana-syuzo, Hyogo pref, Tanaba city, Specific designations:no, Variety of raw rice:organic Yamadanishiki, Degree of rice polishing:50% Pasteurize:no pasteurized ,Yeast:no disclosed, Yeast starter:ki-moto type method, Alc%:16% Fragrance:fluits ,Taste:fluity

木桶仕込み オーガニック山田錦 乳酸無添加

高橋幸典氏が栽培した有機栽培山田錦を100%使用した純米酒です。ただし、特定名称表示はありません。精米歩合は50%。酒母は乳酸無添加となっていますが、生酛か山廃酛かも非公表ということで、ここは後で考えてみたいと思います。酵母も非公表です。仕込みは新規に製造した木桶を使った仕込みで、アルコール度は16度の原酒。日本酒度は‐3となっています。このあたりもいろいろと想像が膨らむところです。

やさしい豊かさ、特徴のある酸味

開栓とともに果実感いっぱいの吟醸香が立ち上ります。口当たりの第一感はやさしい酸味。柑橘的でしっかりした酸味が広がります。同時に、この酸味を押し上げるように豊かで質感のある甘みが膨らんできます。この二つが味わいの中心。一言で表現すれば豊かな味わいです。まろみがありつつ濃厚に過ぎない爽やかさがこちらの蔵らしいところですが、速醸のシェイプが効いた鮮やかさと異なるのは、新たな酒母や木桶の影響でしょうか。それとも有機栽培の山田錦の深い滋味の由縁でしょうか。酸味による比較的早く端正なキレに結びます。

今年6月の丹波市市島町の農村風景。

乳酸無添加酛

コロナ禍の厳しい市場環境のなかでの新ブランドの立ち上げで、当然ながら、斬新なコンセプトが盛り込まれています。
その一つが「乳酸無添加酛」というもの。速醸酛は「乳酸」を添加しますが、生酛系酒母である生酛と山廃酛は空気中の乳酸菌が入って、それが発酵することで乳酸を得るというもの。こちらでは、昨年から山廃酛の「山廃 純米生原酒」が定番化されていますので、それとは異なるということであれば、「乳酸菌」を添加することによって乳酸を得ているということになるのでしょうか。「乳酸菌」を添加するという方法も日本酒の長い歴史のなかでの伝統技法として古くからあるので、このあたりはなかなか複雑で新開発の技術の登場も見られるところです。

木桶仕込

かつては木桶を使っていたものが、ホーローやステンレスに変わったのは、清掃の労力を軽減する他に、木製の道具に住み着いた計算外の微生物の影響を排除するということがあったようです。その結果、酒造に使えるサイズの木桶を制作できる製造所もほとんどなくなっており、現在はほぼ唯一かも知れない堺市のメーカーに新規発注した木桶が使われています。近年、木桶の持つ想定外の微生物の働きに注目して、いくつか酒蔵で木桶仕込が復活しており、このブログでも数蔵のお酒を紹介していますが、やはり「温度管理の難しさ」と「発酵の管理の複雑さ」が課題であるそうですが、そのあたりをお酒の個性から読み解く楽しみがあります。

オーガニック山田錦

こちらの蔵では酒米を契約農家さんから仕入れることが多いようで、その場合は有機栽培の酒米が多いように思います。当然、通常よりも仕入値が上がるため、お酒の値段も高めに設定されているようですが、コロナ禍の状況を考えると、家飲みで飲むお酒は多少の値段の違い(多少では済まない場合もありますが)よりも、より本質的な味わいが基準になってくるのではないかと思います。大量に仕入れる飲食店の場合は、百円円や二百円の違いが利益に大きく影響するでしょうが、家で消費するなら千円や二千円の違いでも満足感で納得できると思います。

ほぼ年中無休で営業する酒蔵内の直売所。駐車スペースは余裕があります。

コロナ禍以降のお酒を考えてみる

このお酒もそうですが、このブログで紹介しているお酒は、ほぼ飲食店では出されないお酒です。その理由は、もともとの値段設定が高いために、飲食店が利益を乗せにくくなってしまうことと、生産量が限定されるために大量の注文には応じられないためです。生産量が限定されるとディスカウントも不可能になるという相関もあるでしょう。やはり、家飲みに向いたお酒になります。

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