令和2酒造年度醸造の最初の新酒は、大阪府の南部、泉州の泉佐野市に蔵を構える北庄司酒造店さんの「荘の郷 純米吟醸 生原酒 初走り」です。この秋の収穫米を使った12月初めの新酒で山田錦を使うというのが何よりの特徴です。2020年12月製造で、限定500本の販売です。
荘の郷 純米吟醸 生原酒 初走り 720ml 2,050円
この時期に! 阿波山田錦で吟醸を
原料米は全量山田錦で精米歩合は55%。12月当初という時期で今年収穫の山田錦を使った新酒というのは、考えられないくらい早い蔵出しですが、伺ったところ、契約田の徳島産の阿波山田錦とのこと。収穫の早い温暖地域のため、この時期が可能になったのでしょう。酒母は速醸酛で酵母は不明です。アルコール度は17.8度で、しぼりたての「中汲み」の部分を使った無濾過の生原酒となっています。日本酒度は+3.9、酸度1.7、アミノ酸度0.9と、ちょっと雰囲気のある値になっています。
旨味がしっかりと膨らむ新鮮な生原酒
立ち上る香りはおだやかな果実香。含み香では麹香が広がります。口当たりにはごく微細な発泡感があります。甘味を中心として旨味がしっかりと膨らみながら、シャープな酸味が駆け巡ります。原酒らしい辛みとほんの少しの渋みを塩梅しながら味わいを長めにとどめながら、スッパリではなくバッサリとキレ上がります。発泡感はありますが、滓を絡めたお酒ではありません。荒走りでも責めでもない「中汲み」らしい、輪郭のある姿の佳い仕上がりです。とは言え、力強い旨味の溢れた荒々しさもあり、新酒の生原酒らしい新鮮な味わいを存分に楽しませてくれます。
「佳い酒を少しづつ」をコンセプトに
大正10年(1921年)創醸の新しい酒蔵で、蔵は関西空港連絡道路沿いにあって、りんくうタウンにも近い位置ですが、後背には和泉山脈が迫って、良い水に恵まれそうな地形にあります。泉州は古代から続く長い歴史がある地域ですが、所在地の日根野(ひねの)と呼ばれる地域は、農業に適した豊かな土地で米作りも盛んであったということです。以前は、季節の杜氏・蔵人さんが酒造りにやってきて菊正宗さんの未納税(桶売り)をしていたそうですが、現在は南部流を受け継いだ社員杜氏さんが蔵元さんとともに酒づくりを担い、平成7年からは「量から質へ」設備を一新して、「佳い酒を少しづつ」と高品質の酒造りに舵を切っています。
全国新酒鑑評会で3度の金賞
「端麗に流されず辛口に過ぎない日本酒本来の旨味」を掲げて、現杜氏さんで3度の全国新酒鑑評会金賞受賞、直近は平成27酒造年度に金賞受賞しています。酒米は山田錦と五百万石を使い、山田錦では地元泉州産をはじめ、大吟醸などには特等米を使用、このお酒の阿波山田錦も蔵元自ら現地に足を運び、田圃の状況や育成課程も確認しながら契約したそうで、お米の調達に多大な努力をされているようです。そのように調達した山田錦をこの時期の新米新酒に投入した限定500本(2石)はなかなかに価値あるものだと思います。
是非どうぞ!「豆腐の酒粕漬け」
発酵食品にもいろいろ取り組んでおられ、そのひとつが「豆腐の酒粕漬け」です。本苦り硬豆腐を酒粕、上白糖、海水塩、米こうじで漬け込んだもの。「お手をお汚しし誠に申し訳御座いません」という一品は、まず、真空パックの口を切って茶色い酒粕に埋もれた豆腐の入ったパッケージを掴み出し、さらに酒粕の詰まったパッケージの中から不織布に包まれた豆腐を引き出し、どろどろの不織布を丁寧に開いて取り出すというもの。この豆腐、いや、かつては豆腐であったものはブルーやシェーブルチーズの食感そのものなれど、日本酒に合うことは請け合いです。周りの酒粕でご飯もすすみます。蔵元さんの研究の成果だそうですが、いろいろ考えはるもんですね。