滋賀県高島市新旭町に蔵を構える上原酒造さんの「不老泉 速醸 特別純米原酒 参年熟成」です。上原酒造さんの3年熟成と言えば酵母無添加の「不老泉 山廃仕込純米酒 原酒 参年熟成」、通称「赤ラベル」が有名ですが、こちらは「白ラベル」の愛称をつけて、今年新しくラインナップされました。2020年6月製造です。
不老泉 速醸 特別純米 原酒 参年熟成 720ml 1,650円
速醸火入れの3年熟成
同じ3年熟成ながら、「赤ラベル」とはいろいろな面で対極に位置するお酒。まずは、原料米は「赤ラベル」の秋田県産たかね錦に対して滋賀県産山田錦。精米は同じく60%ですが、酒母は「赤ラベル」の酵母無添加山廃酛に対して、協会7号酵母の速醸酛です。平成28酒造年度の仕込みで、火入れ後3年間のタンク熟成を経て蔵出しされました。アルコール度は17度、日本酒度は+2、酸度は2.0、アミノ酸度は1.3となっていますが、横坂安男杜氏が醸すスペックでは計り知れない味わいの予感が上原酒造さんらしさです。
「白ラベル」の名が与えられた濃醇明快な味わい
開栓すると干葡萄のようなドライフルーツの香りが濃厚に立ち上ります。まずは冷で。口当たりから熟成で厚みを増した果実感のある酸味がいっぱいに駆けめぐります。とろりとした太い酸で、濃縮された甘味と旨味によって熟成感たっぷりの膨らみを堪能させます。次に45℃の燗に。酸味が大人しくなると同時に、米を感じる甘味と旨味が熟成の苦渋味を塩梅しながら、見事なバランスで膨らみます。蔵で伺うと「存分にいじめてください」と高い温度の燗を勧められました。そこで65℃の燗に。冷のときとは異なるまろやかな酸が前面に出ながら五味が豊かに膨らみます。この温度でも味わいが平板に流れず、濃醇な姿形を留めるのは見事。さすが「不老泉」です。いずれもキレはスッパリとではなく搾り切るようなキレ味。豊穣の余韻を残します。
赤ラベルの複雑万化な味わいとは異なった、熟成の深さを持ちながら味わいに明快さを感じる逸品で、「白ラベル」の名が与えられたのも頷けます。
facebookの紹介
ところで、上原酒造さんのfacebookでの表現は「味の印象は赤ラベルが色々な味が複雑に感じられるのと対照的に、すっきりとした古酒といった感じです。しかし古酒らしい香りと十分に熟成した味はもちろんありますが、飲んだ感じのアルコール感が新鮮に感じられ、何杯も飲んでしまいそうな飲み飽きしない味わいです。冷でもおいしくいただけますし、常温でも長く飲み続けていられると思いますが、もちろん赤ラベルと同様に熱燗にしても美味しくいただけます。複雑な旨味は赤ラベルに1歩譲りますが、上品さと口あたりの軟らかさは赤ラベル以上です・・・・その他の印象としまして、不老泉らしい力強い飲み口、ドライフルーツを思わせる果実味、3年の熟成期間を思わせない飲みやすさ、旨味がありながらキレ感がある、味わい深くても軽やか等の評価もいただきました」と中間は省略しましたが、すごく長くなっています。しかし、これは当然で、1本のお酒って、一言や二言ではとても表現しきれるものじゃないと、私は思います。
「じっくりと育てていきます」という新製品
5年ぶりの新商品として、主力の赤ラベルに対する「白い参年熟成」として、「じっくりと育てていきます」という期待のお酒です。発売時期も赤ラベルと同時期になりました。上原酒造さんと言えば酵母無添加山廃がつとに有名ですが、こちらは速醸酛です。もちろん、従来から速醸酛のお酒も造っていて、亀の尾を使った「亀亀覇」や新酒で出荷される「杣の天狗」など、いずれ劣らぬ特徴のあるお酒が並びます。
こちらは火入れしての3年熟成ですが、「速醸の生では2年熟成が限度。3年は厳しくて甘味のバランスが崩れる。そうなるともはやマニアな世界」だそうで「火入れすれば、3年でも十分。様々な温度の燗を楽しんで欲しい」とのこと。一方、「山廃では生の3年熟成でも全く問題ない」とその違いを解説していただきました。
上原酒造さんのお酒の基本は熟成ですので、2年や3年の熟成が普通で、長いものでは平成10酒造年度という22年の歳月を眠った逸品も少量ながら販売されています。
今年の「初呑み切り」は中止
なお、毎年7月末に一般にも開放される「初呑み切り」は、今年度は新型コロナウイルス感染症対策のため中止になりました。もちろん、蔵関係者の業務としての「初呑み切り」は実施されます。なお、今年は新型コロナの影響で輸出が動かず、結構遅くまで売り切れずにお酒は残りそうだそうです。