福井弥平商店「萩の露 特別純米 十水仕込 雨垂れ石を穿つ」27BY 滋賀県高島市

2016/10/21投稿記事 滋賀県高島市に蔵を構える福井弥平商店さんの「萩の露 特別純米 十水仕込 雨垂れ石を穿つ」です。H28年10月に蔵出しとなったお酒です。

特徴 「十水仕込(とみずじこみ)」の汲水歩合

このお酒の特徴は「十水仕込(とみずじこみ)」という汲水歩合で醸造されたところ。汲水歩合とは留添までの「汲水㍑/白米㎏×100%」ですが、「十水」とはこの値が100%という意味です。醪の発酵経過に大きく影響します。米は山田錦と吟吹雪を55~60%精米で。アルコール度は15度です。酒母は速醸だと思います。

印象 五味が濃醇に濃縮

開栓すると結構確かな香りがして、「あれっ、吟醸だったかな?」とラベルを見直しました。上立香はほのかに、口中香はしっかりと稲藁のような香ばしい香りが広がります。お味は厚みと力のある甘味と酸が濃醇に、苦み、渋み、辛味はギュッと濃縮して輪郭をはっきりさせます。ソリッド感が米の旨みと爽快感を両立させる、冷から燗まで幅広く味わえる、なかなかに旨い酒です。

十水の時代と歴史

十水の色合い

「江戸時代に行われていた醸造法」というお話ですが、これは現代のお酒でしょう。もしこれが江戸時代に出現したら、とんでもないことに。「戦国自衛隊」みたいになったと思います。色は美しい黄金色。意外に淡い色合いです。江戸時代のなかで、十水仕込の時代は案外短かったのではないかと思います。文献によれば、18世紀末では伊丹で60%、灘でも66%程度の汲水歩合であったようで、灘では19世紀に入って文化・文政期に「十水」に、天保・弘化を経て1850年あたりでは「十二水」になったと記録されています。十水の時代は20~30年程度でしょうか。現代では125~135%。吟醸では140%になっているものもあるようです。
もちろんこれはコスト削減などではなく、汲水を増やした方が酵母の生育環境として優れているためで、当時の杜氏たちも経験的に知っていたのでしょう。ただ、酵母以外の雑菌や乳酸菌にとっても繁殖しやすい環境であり、腐造の危険も伴います。これを防ぐ技術的基盤、水車精米による精米歩合の改善(70~80%)、仕舞個数の増大、酛や醪日数の短縮による寒造りへの集中、生酛造りなどの技術革新がこの時期に確立したことで、汲水歩合の増加が可能になったのでしょう。

琵琶湖畔の米どころで、比良山系を後背に

一方、元禄文化の担い手が上方であったのに対して、化政文化は江戸が中心でした。文政5年(1822年)の下り酒の江戸入津数は22万5千石にもなったことからも、江戸で好まれる酒へのシフトがあったのでしょう。そういう意味から、当時の江戸で流行りの食べ物とこのお酒を合わせてみるという楽しみもありそうです。18世紀半ば寛延年間に現在地で創業。JR湖西線近江高島駅に近い古い町並みの中に立地します。琵琶湖畔の米どころで、比良山系を後背に持つ山紫水明の地。こちらのお酒は久しぶりになります。以前は、失礼ながら、あまり印象に残らなかったのですが、率直に旨くなったと思いました。

萩の露 特別純米 十水仕込 雨垂れ石を穿つ 720ml 1,458円

10月に蔵出し。数量は限られているとのことです。

滋賀県高島市勝野1387-1

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