木下酒造「玉川 Time Machine 1712」23BYビンテージ 京都府京丹後市

2016/9/14投稿記事 京都府京丹後市の久美浜湾を臨む木下酒造さんの「玉川 Time Machine 1712」です。23BYの長期熟成酒で製造はH28年7月です。

特徴 酵母無添加の長期熟成酒

このお酒の特徴は2つ。一つは、23BYの熟成酒であるということ。もう一つは江戸時代の製法で造ったお酒であるということ。具体的には「自然仕込」と表示してある酵母無添加、つまり蔵付き酵母の自然増殖に任せた生酛づくりであるということです。精米も88%と当時の精米歩合で、アルコール度は14度以上15度未満です。吟醸タイプと比べて3倍の酸度、5~7倍のアミノ酸度と紹介されています。

印象 「江戸時代」がコンセプトの濃い甘味と強い酸

久美浜湾の畔にある醸造蔵と販売所

色沢はご覧のとおり、低精米によるフラビン系と熟成によるメラノイジンの色合いはバッチリ表れています。透明の瓶ですので、見たとおりの色合い。香はナッツ系の香りです。上立香は弱く、口中香で一気に広がります。お味は「江戸時代」というコンセプトどおりのごく強い甘味が支配します。汲水歩合も60~70%程度と推察します。3日麹(さし渡り4日?)というのも糖化を強く進める当時の手法によるものでしょう。この甘味でダレないのも強い酸とアミノ酸によるもの。熟成によって雑味いっぱいの粗さが消えて滑らかな丸みになっています。これは飲みやすい!食中酒としても十分通用する旨さです。以前にご紹介した「白雪 元禄の酒」が蔵に残る古文書から学術レベルまで下って正確に再現しようとしたのに対して、こちらは自由な発想をよりどころにしたところが異なった個性になっていると思います。
なお、1712年は正徳2年ですが、「江戸時代」と言っても中~末期には灘酒では汲水歩合は100~120%になり、かなり現代に近い酒質になっていますので、初~中期という設定だと思います。

英国人フィリップ・ハーパー杜氏

 こちらの蔵は天保13年(1842年)に創業。先代の中井杜氏が亡くなられた時に廃業も考えられたようですが、取引先から現在のフィリップ・ハーパー杜氏を紹介されたそうです。外国人初の杜氏として有名ですが、氏はイギリス出身。バーミンガムで生まれ、コーンウォールで育ち、オックスフォード大学卒業後に英語教師派遣プログラムで来日。日本酒に出会い、奈良の梅の宿酒造で蔵人として10年間働き、南部杜氏組合杜氏資格を取得、大阪の大門酒造を経て木下酒造に来られたそうです。こちらの蔵に山廃や生酛造りを持ち込んだのもハーパー杜氏で、「日本酒業界は付加価値を付けるのが苦手」ということから、「熟成」は生かすべき武器とのこと。インタビューに「他の蔵と違ったやり方はない」「コツコツとやるべきことを片付けるしかない仕事」と答える姿は、梅の宿酒造の蔵元が「大和魂がある」と評したことそのもののようです。

今年7月に公開された映画「カンパイ!世界が恋する日本酒」(小西未来監督・シンカ制作)の主要な3人の登場人物の一人。「TVメディアには絶対出ない」方なので、映像で見れるのは最後の機会でしょう。

京都府京丹後市久美浜町甲山1512

玉川 Time Machine 1712 360ml 1,040円

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