2016/9/17投稿記事 灘・御影郷の菊正宗酒造さんが130年ぶりに新たに立ち上げたブランド「百黙 純米大吟醸」です。H28年9月製造の火入れ。
特徴 これまでの菊正宗とは違う展開
130年ぶりの新ブランド立ち上げということで話題に。特徴のある鶴首の瓶。専用パンフの表紙には「話したいことが、いっぱいあります」と書かれていますが、中身はほぼ謎です。米は三木市吉川の特A地区、契約農家の嘉納会が育てる山田錦100%。精米は39%です。アルコール度は15度以上16度未満。酒母は速醸。それ以外は明らかにされていません。灘の酒造関係者から「キクさんの酒はすぐわかる」と言われる独特の個性から大きく離れました。
印象 フルーティよりビューティフル
まず色合いは清澄な透明。上立香は鮮やかに立ち上がるカプロン酸エチル系のリンゴの香りが豊かに広がります。確かにこれまでの菊正宗とは異なった、鑑評会出品酒のような吟醸香です。まず口に含むと、「あれっ!水」という第一印象。それから一呼吸、二呼吸おいて、繊細な甘味と抑制された酸味がグワッと広がり、一瞬旨みに転化、続いてヒリっとする辛味と苦みが広がり、拡散しながらキレて後をひかず真空の余韻が残るという、なかなか経験したことの無い味わいです。フルーティという範疇には入りますが、印象はフルーティよりビューティフル。総体として端麗でありながら、意外に濃厚な充実感が残ります。パンフレットの文句は「味わい凛として豊潤(Sharp yet rich)」
「生酛」の菊正宗の速醸酒
スペックなど不明なので、推測するしかないですが、酵母は抗セルレニン耐性株のような高エステル生成系の酵母、酒母は速醸ではないかと思います。(後日確認したところ速醸でした)菊正宗と言えば上撰以上はすべて生酛造りというのが売り物。生酛らしいゴク味のある濃醇な味わいが特徴ですが、このお酒はかなり遠い位置にあるので、新ブランドとして立ち上げる必要性があったのではないでしょうか。平成27酒造年度の新酒鑑評会で平成22酒造年度以来の金賞受賞(トップ写真は、受賞対象の菊栄蔵)。普通の蔵なら大喜びで大々的に宣伝し、灘の大手蔵でも「みなさまのおかげで・・・・これからも精進します」くらいの社告は出しますが、菊正宗はピクリとも反応しない。なぜなのか尋ねてみたところ、「元々出品していなかった。鑑評会に出品しはじめて何年にもなっていないのに、宣伝するのは恥ずかしい」というお話。まあ、これは個人的な見解なので公式ではありません。いずれにせよ、菊正宗も「速醸」で出しているとすれば、この「百黙」がその延長にあるものでしょう。その気になれば金賞の取れる技術力がフィードバックされたかと考えています。
県内の料飲店のみの販売チャンネル
低迷する日本酒市場の下で、国内で伸びてるのはフルーティな純米吟醸であり、もう一つ伸びているのが海外市場です。このトレンドで勝負することに照準を合わせたお酒だと思います。販売チャンネルも小売ではなく、料飲店に出すという戦略。まずは、兵庫県内のみの出荷ですが、いずれは海外市場を意識したチャレンジでしょうか。今後の展開がどうなるのか興味があります。
YouTubeで菊正宗酒造による専用動画が公開されています。
百黙 純米大吟醸 720ml 2,700円(税込)
神戸市東灘区魚崎西町1-9-1
現在、小売りで入手できるのは菊正宗酒造記念館のみ。通販もない模様。