但馬地方・朝来市の此の友酒造さんの特徴あるお酒、「但馬 日本酒伝統伝統製法 柱仕込み」です。その特徴は醸造用アルコールではなく「柱焼酎」を添加したところ。江戸時代から続く伝統製法であるところから「日本酒伝統製法 柱仕込み」とネーミングされ、此の友酒造さんを代表するお酒の一つになっています。醸造・上槽から2年を寝かせているそうで、2020年3月製造。
日本酒伝統製法 柱仕込み 但馬 720ml 1,430円
”柱焼酎”を添加、米焼酎「天のひぼこ」
原料は米(国産米)、米麹(国産米)、米焼酎「天のひぼこ」となっています。米種、酒母、酵母は不明です。「現在は、日本酒の醪に醸造アルコールという無味無臭のアルコールを添加するのが一般的ですが、この柱仕込みは、醸造アルコールのかわりに当蔵で蒸留した米焼酎『天のひぼこ』を添加することにより、よりいっそう米の旨味が凝縮されます」と解説されています。精米歩合は70%、アルコール度は15度(ラベル表記)、日本酒度+1.0、酸度1.3。醸造アルコールではなく焼酎添加のため、特定名称表示はありません。
濃醇なコク、穀物感たっぷり
深い穀物香。しっかりと全体を支配する米の甘み。そして力強い酸味。果実的ではない太い甘味と酸味が濃醇な旨味を醸しだします。「酒の風味がしゃんとする」とはこのことでしょうか。醸造アルコール添加の軽やかさとは対極のどっしりと座るコクは「焼酎」の力でしょうか、熟成の成果でしょうか、その両方でしょうか。ひやでは甘味の存在感が強く、「ぬる燗で」という蔵のお勧めでは、溶けで合いながら調和する酸味が至福の一杯となります。
柱焼酎が開発された江戸時代は極めて低精米で雑味も強いものになっていたと思われるので、このお酒とは違ったものであったしょうが、豊かな穀物感に往時を想像させるものがあります。例えば、鬼平犯科帳の長谷川平蔵が居酒屋で「おやじ、酒をな」と言って出てきたのはこんな酒ではなかったかと思ってしまいます。
”柱焼酎”は江戸元禄期からの手法
「日本酒の醪に米焼酎を添加する仕込みの技法は、江戸元禄期から明治初期まで行われ、当蔵ではその製法を再現しました」ということで、「『童蒙酒造記』に、醸造した酒に焼酎を入れると「味がしゃんとし、足強く候」というくだりがあり、それを以って柱仕込みと名づけられています」と解説されています。
童蒙酒造記
さて、この「柱焼酎」のことが記述された江戸時代(貞亨4年・1687年成立と推定)の酒造技術書「童蒙酒造記」の「坤 伊丹酒之事」には
「醤酎を薄く取り、揚前五、三日前に一割程醅の中へ入る也。依、風味洒として足強く候。醤酎香ハ醅に除く也。」と記されており、現代語訳すると「焼酎を少し取り、上槽の五日から三日前に、一割ほど醪の中に加える。こうすると酒の風味がしゃんとし、日持ちがよくなる。焼酎の香りは醪によって取り除かれる」となります。
また、「寒元造様極意伝」(元禄3年)の「諸白詰酒指南極意」には「・・先にとった諸白の荒走りの甘みが強ければ、酒取りの辛い焼酎を酒一石当たり二升加え、それから二十四、五日目から三十日目ころに新しい桶に詰めかえる」とあり、焼酎添加はかなり広く行われていた技術であることが伺われます。
童蒙酒造記には現代に直接つながる醸造技術、菩提酛や煮酛の記述のほか、当時の流通経済状況も記されている、たいへんおもしろい資料です。
全国新酒鑑評会、平成25酒造年度から連続金賞受賞
此の友酒造さんは朝来市山東町矢名瀬町にあり、元禄3年(1690年)の創業。丹波との境にある粟鹿山から流れるたいへん酒造に適した地下水のとれる土地だそうです。田治米合名さんとは同町内の至近距離にあります。杜氏さんは但馬杜氏・勝原誠氏で全国新酒鑑評会では平成25酒造年度から6年連続金賞受賞、令和元酒造年度は入賞(新型コロナウイルス感染拡大対策で決審中止、金賞選定なし)と県内屈指の活躍です。
昨年2019年11月には事務所棟を改築し、現在の美しく機能的な販売所となっています。