日本盛「日本盛 灘の生一本 2020年」R1BY 兵庫県西宮市

灘酒研究会・酒質審査委員会が認定する2020年「灘の生一本」プロジェクトに参加した灘五郷の9つの酒蔵のうち西宮郷にある日本盛さんが認定を受けた特別純米酒です。例年は9月に蔵出しされますが、今年はコロナ禍の影響で、8月の先行試飲会も中止になるなかで、ようやく10月8日に9つの蔵から一斉に発売になりました。
日本盛 灘の生一本 2020年 720ml 1,287円

[Nihonsakari Nada-no-kiippon-2020] Brewery:Nihonsakari Brewery, Hyogo pref, Nishinomiya city, Specific designations:Tokubetu-Junmai-shu, Variety of raw rice:Akidawara and Fukunohana ,Degree of rice polishing:60% , Pasteurize:pasteurized ,Yeast:no-disclosed ,Yeast starter:Sokujo-moto method, Alc%:15-16%, Fragrance:apple, Tast:clear

「あきだわら」とフクノハナ

灘酒研究会・酒質審査委員会の恒例のプロジェクト、「灘の生一本」に出品され、認定された特別純米酒です。原料米は兵庫県産の「あきだわら」とフクノハナという珍しい組み合わせ。精米歩合は60%。日本酒度は+3、酸度1.8、アミノ酸度は1.5となっています。アルコール度は15-16度です。酒母は速醸酛系でしょうが、高温糖化酛の可能性もあります。例年は先行試飲会で詳しく聞きますが、今年度は中止になりましたので、詳細は不明のままとなっています。

ぬるめの燗がお薦めの綺麗な味わい

爽やかでシャープなリンゴ系の果実香が立ち上ります。まずは冷で。口に含んだ第一感は甘味。穏やかで柔らかな甘味がほんのり。続いてこれも爽やかで軽やかな酸味がわずかに膨らみながら全体に広がります。アミノ酸度は1.5ですが、日本盛さんらしいバランスのとれた綺麗な味わいです。次に人肌+αの燗を試してみます。甘味と酸味のバランスは保ちながら、たっぷりととろけるように膨らんできます。これは意外でした。甘味も酸味もはっきりとしてきますが、綺麗な味わいはそのままです。更に温度を上げると、姿が崩れたりはしませんが、とろみ感が後退します。蔵のお薦めは常温ですが、これは是非、ぬるめの燗を微妙に調整しながら楽しんでください。いずれの場合もキレは比較的早めに消えるようにキレていきます。

灘酒研究会・酒質審査委員会「灘の生一本プロジェクト」

灘酒研究会は100年以上の歴史をもち、灘と近隣の酒蔵の醸造技術者が、企業の枠を超えて結集した組織で、その中につくられた酒質審査委員会がこの「灘の生一本プロジェクト」を実施しています。その目的は「醸造の専門家として酒質の審査基準を制定。プロファイリング法による酒質評価と、灘を代表する技術者達の経験に基づく評価の両面から厳しい審査を行い、今までそれぞれの判断で行ってきた味と香りの表現を統一、認定」するというものです。味わい、香りタイプに加え、味覚表現項目は味について26種、香りについて13種の統一基準に照らし合わせて、「官能評価」「認定協議」などが行われ、記載可能な酒質表現と評価が決定されます。従って、いわゆるコンテストではありませんが、審査を担当するのも酒造りに携わる会員の醸造技術者で、その審査は「情け容赦がない。とても緊張する」(某蔵の出品者談)らしいです。

日本盛本社正面入り口。さすがに大手酒蔵らしい広大な敷地に「宮水井戸」以外の全ての施設が集中しています。

「あきだわら」とフクノハナ 2

このお酒の特徴となると、やはりお米の選択でしょうか。フクノハナは知る人ぞ知るお米で、現在は兵庫県豊岡市出石町のみで栽培されています。フクノハナ(奥羽260号)は奥羽237号と東北76号の交配種で、農林水産省東北農業試験場で1959年に育成されたもので、1966年に命名されました。昭和48年(1973年)に出石町で栽培開始。水を吸い過ぎ、蒸米が柔らかいため麹にすることが困難という評価で、栽培地も減少した結果、出石町の農家と石川県の福光屋さんが契約栽培というかたちで守ることになりました。加賀鳶や黒帯を中心ブランドにする福光屋はレギュラー酒などに不可欠の米と評価されています。
一方の「あきだわら」は日本酒界ではほとんど聞かない名前ですが、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)作物研究所が育成したもので、食味、品質が良く、多収の主食用水稲品種と紹介されています。2009年出願、2011年品種登録という新しい米で、収量性に優れる「ミレニシキ」と品質・食味の優れる「イクヒカリ」を交配したもの。コシヒカリ」より30%程度の多収が期待でるもので、「安価で良質な米商品として、業務用米等への利用が期待されています」というものです。写真を見た限りですが、心白の発現などに特長があるものではないようです。おそらく掛米用でしょうか。
こうしたお米を使う、しかも「灘の生一本」のような審査付の製品に使うところは、研究・開発力で屈指の(6本の指に入る)実力を持つ日本盛さんらしいところだと思います。

日本盛の宮水井戸場。蔵と本社の所在する用海町から一ブロック西側に位置します。

 

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