地元の日本酒マニアに愛されるお酒。 灘五郷のうち西宮郷の白鷹さんが、西宮市内の特約店13店限定で販売する特別純米酒「宮水の郷」です。火入れで夏越しの熟成タイプが基本ですが、こちらは新酒の無濾過生原酒タイプです。さらに近年、純米大吟醸バージョンもラインナップされました。2019年2月製造。
宮水の郷 無濾過生原酒 720ml 1,400円
山田錦、宮水、生酛
「生粋の灘酒」が白鷹のキャッチフレーズ。その中でも最も灘酒の特徴を表現するお酒です。原料米は三木市吉川町の契約田(村米)産の山田錦を全量使用。精米歩合は70%です。仕込水は自社井戸から汲まれる宮水。酒母は伝統の生酛で、酵母は協会7号酵母。特定名称は特別純米酒でアルコール度は18度です。ヤブタで上槽し、無濾過ですが滓引きはされていると思います。
「宮水の郷」は長らく2回火入れで夏越えの熟成でしたが、後に新酒の無濾過生原酒タイプが追加され、最近には純米大吟醸も追加されました。
しっかりとした酸で濃醇な灘酒
上立つリンゴの香りは飲み口を整えるほのかなもの。キメの細かい滑らかな口当たりは生酛らしいところです。滑らかに流れ込んで、太くしっかりとした酸が力強く立ち上がって膨らみ、これが米の甘味を含んだたっぷりした旨味を連れてきます。濃醇な質感ながら、生酒らしい果実的でフレッシュな味わいが印象に残ります。後半はこの酸を中心に少しの苦味を伴いながらキレ上がり、後を引きません。なお「開栓から1週間で飲み切る」のが蔵の要求です。
宮水の郷は火入れタイプが夏を越し、熟成で香味が整った頃合いに上燗で味わうのが王道だとは思いますが、これは後日の楽しみとしました。
灘の酒蔵らしい酒蔵
現在は白鷹㈱ですが、旧社名は辰馬悦蔵商店です。白鹿の辰馬本家酒造に対して「北辰馬家」や「北店」と呼ばれていました。1862年(文久2年)に辰馬本家から初代辰馬悦蔵が分家して創業。1945年(昭和20年)の阪神大空襲で大半の設備を喪失しましたが、1960年(昭和35年)に鉄筋コンクリート4階建の本蔵を建設して、これを唯一の醸造蔵として現在に至ります。
宮水地帯に最も近く
「宮水の郷」という名前は、「宮水」を産出する宮水地帯に最も近く位置し、多数の宮水井戸を保持して、他のほとんどの蔵がタンク車で水を運搬するのに対し、直接地下パイプで引き込んでいるところから。宮水は西宮市内でも3つの地下水系が合流する東西100メートル、南北200メートルほどのごく狭い地域の浅井戸でのみ汲み上げられます。
村米制度で優良な山田錦
さらに、「村米制度」という村落単位での酒米の契約栽培をはじめたことが、現在の灘五郷の酒蔵、さらにその精神は全国に広がっています。これは明治26年(1893)に初代悦造が当時の美嚢郡奥吉川村市ノ瀬で酒造好適米の改良に取り組んでいた山田篤次郎に着目し、奨励金を出すなどして支援し、この米を酒米として採用しました。これが後に村米制度(契約栽培)に発展し、さらに昭和に入って兵庫県農事試験場で「山田錦」が開発されると、現在の山田錦「特A地区」と呼ばれる三木市吉川町でのすぐれた山田錦の生産につながっています。白鷹では吉川町市野瀬と楠原の両地区が村米地区となっています。
伝統の生酛がほとんど
また、灘で開発・発展した生酛を基本にし、全生産量の95%を生酛によって醸造しているのもこの蔵の特徴です。大吟醸(の一部)などが速醸酛になっています。
丹波杜氏ではなく諏訪杜氏
最後に、灘五郷の酒造りは丹波杜氏によって支えられてきましたが、こちらの杜氏さんは、唯一の諏訪杜氏です。但馬杜氏や南部杜氏はいらっしゃいましたが、おそらく古今を見渡しても唯一のことだと思います。もっとも、現在の灘五郷では、丹波杜氏組合に所属していても社員杜氏がほとんどで、丹波の出身ではなく、大学・大学院の出身者ということになっています。