兵庫県加西市の純米蔵、富久錦さんの「純青 兵庫夢錦 生酛純米吟醸 無濾過直汲み」「純青 兵庫夢錦 生酛純米吟醸 おりがらみ」29BYの2本、平成29醸造年度純青サポーター第1回頒布の新酒2本です。平成29年12月製造。
純青サポーター 10,000円(税別)
この時期に生酛の同じ醪から造られる二つの個性
この時期に生酛の新米新酒を出すのはすごい。加西市の豊倉町営農組合契約栽培の兵庫夢錦を60%精米した純米吟醸生酒です。アルコール度は17度と原酒としては低め。昨年に引き続き精米歩合60%の純米吟醸を生酛で造っています。酵母は協会901号酵母。2本は同じ醪からしぼられたもの。醪は同じものながら、搾りから瓶詰めのプロセス・タイミングに変化をもたせることで、違った特徴のお酒にして、セットで提供するという昨年に続く試みです。
単調さを排した進化した味わい
昨年の純青とは明らかに異なった味わい。「多分昨年の同じ酒よりも米の旨みが濃く、美しい酸を感じていただけると思います」と紹介されています。
まず「純青 兵庫夢錦 生酛純米吟醸 無濾過直汲み」ですが、穏やかで繊細なリンゴ様の上立香が広がります。ほのかな発泡感を伴った口当たりは、甘みを伴った旨味が丸い球面の質感を型づくって、そこから三角錐の酸が屹立しています。骨格のしっかりした五味の押し出しが特徴。新酒らしいフレッシュさはもちろんですが、新酒にありがちな甘味が出過ぎないのが昨年との変化を感じるところ。
一方の「純青 兵庫夢錦 生酛純米吟醸 おりがらみ」は、酸と甘味がミックスした柔らかさと際立った発泡感が特徴。比較すると優しいまろやかさがありますが、甘味が抑制的でくどさがありません。
いずれも、甘味は前半に寄って、早めにやってくるキレは、「はっさく」のような苦味・渋味の後味を型づくって締まりのよい余韻を残します。
昨年同様の生酛ですが、米の旨みは凝縮的で、「フルーティ」の一言では表現できない生酛らしい味わいの深みに進化しています。
純青サポーター制度で、年3回6本の提供
純青は富久錦が新たに取り組むブランドでサポーターと一部契約酒販店で販売されています。サポーター制度は今年5年目になります。募集500人で11月末までに会費10,000円で申し込むと、12月上旬、3月上旬、8月中旬にそれぞれ2本(720ml)が提供されます。今年のラインナップの変更点は8月の第3回で短悍渡船を使って木桶で仕込んだ1本が追加されるところ。前回に続き3月の第2回では「愛山」も頒布される予定です。今年もこの6本でどのようなストーリーを見せてくれるのか楽しみです。なお、1回目で純青酒粕、2回目で伊藤岱玲作のオリジナル杯が付きます。
「純青」、今年のチャレンジ
純青ブランドでは、毎年新しいチャレンジに取り組まれています。今年のテーマは昨年に続いて「古式生酛」造り。昨年は「先人の英知に挑む~丸みのある酸と奥行きのある味わい~」でしたが、今年は「故きを温ねて新しきを創る」「富久錦流生酛造りの進化」になっています。「純青の経験は、それぞれの地域固有の酒造りに理由があることを教えてくれました」というもので、「機械的な温度調整や発酵管理に慣れた私たちに、水を入れる僅かな量や微妙な温度にも意味があることを」と解説されています。昨今、生酛づくりに原点回帰する動きは特に珍しいわけではありませんが、昨年はじめて生酛に挑戦した結果をフィードバックした今後の展開が楽しみです。天保10年(1839年)創業の伝統蔵である一方、1992年には全量純米化。東京農大出身の稲岡敬之社長と丹波杜氏組合所属の村崎哲也杜氏さんをはじめ若手蔵人さんたちが、次は何を見せてくれるのでしょうか。