分かりやすいネーミングと美しいデザイン。姫路市夢前町の壷坂酒造さんが「播磨日本酒プロジェクト」と銘打ったプロジェクトで発表した「純米吟醸 雪彦山 愛山1801」です。発売初年から好評を博し、年々人気上昇で、壷坂酒造さんの代表酒に成長しました。ほぼ予約完売状態の酒販店もありますが、意外に長期間残っているところもあります。2020年4月製造。
純米吟醸 雪彦山 愛山1801 720ml 1,650円
[Seppiko-zan Aiyama1801 junmai-ginjo] Brewery:Tsubosaka syuzo, Hyogo pref, Himeji city, Specific designations:Junmai-ginko-shu, Variety of raw rice:Aiyama, Degree of rice polishing:60% Pasteurize:pasteurized ,Yeast:Kyokai1801 ,Yeast starter:sokujo-moto method, Alc%:17% Fragrance:apple ,Taste:fruity地元で手掛ける愛山と1801酵母
ネーミングのとおり原料米は愛山で酵母は協会1801号です。精米歩合は60%で酒母は速醸酛。アルコール度は17度となっています。分かっているスペックこれくらいです。「愛山」は地元夢前町の稲作農家・飯塚祐樹さんの作品。飯塚さんを中心に立ち上げられた「播磨日本酒プロジェクト」では田植えや収穫から一般参加を募って作られていますので、自らが手掛けた米で造った酒を味わう楽しむこともできます。昨年は6月9日(米種は辨慶だったようです)の田植えでしたが、この状況ですので今年実施できるかは不明です。
鮮烈な香り、美しい姿の味わい
超軟質米として知られた「愛山」とカプロン酸エチル”超”高生産の「協会1801号」酵母が組み合わされるとどうなるか。ネーミングだけでも興味深々です。
まずは、鮮やかなリンゴの香り。周囲の空気を染めるような力強い香りが立ち上がります。クリアでフルーティな味わいは立ち上がり早くサッと広がりますが、味わいの頂点は前半にあり、後半は雪が解けるようになだらかにキレて静かな余韻を残します。味わいの盛り上がりは、冷蔵庫から出してすぐでは硬質に抑制されて透明感が目立ち、冷からぬる燗までは温度が上がるごとに柔和な旨味が膨らんできます。ただし、温度を上げ過ぎると膨らみがパン!と弾けてしまいます。
骨格のしっかりした雑味のない美しい姿。輪郭にほのかな苦味が見え隠れするのは1801酵母らしいところでしょうか。このまま鑑評会に出せるんじゃないかと思ってしまうお酒です。
「愛山」の成立と現在
今さらではありますが、「愛山」の成り立ちを書き残しておきたいと思います。兵庫県立農事試験場の酒造米試験地で1941年に「愛船117号」を種子親に、「山雄67号」を花粉親に交配され、「愛山11号」の系統名で生産力検定を(1949-1951)受けたものの「収量性は高いが質がやや劣る」という評価で1951年に試験終了となっています。しかし、その後も試験地の地元加東郡社町(現加東市社町)の農家で30haほどの栽培が続けられ、品種保存栽培や原々種栽培が行われながら、1980年に「愛山」として醸造用玄米の産地品種銘柄に指定されています。
当時の特性・評価は出穂、成熟期は山田錦と同熟の晩生種。稈長、穂長、穂数は山田錦とほぼ同じ中間型。1穂籾数は山田錦と同程度。稈の細太、剛柔程度は中。倒伏の発生は山田錦よりやや少。芒の発生はなく、ふ色、芒およびふ先色は白。脱粒性は易。粒形はやや長粒。千粒重は30.0gと山田錦より大。心白の発現は多く大きい。収量性は高いが品質はやや劣るとなっています。(参考:兵庫県立農林水産技術総合センター研究報告[農業編]第54号『酒米試験地の設立と初期品種系統「兵庫雄町」、「山雄67号」および「愛山」の育成経過』)
兵庫県西脇市で愛山を作っている(他県に出荷)酒米農家さんのお話では「あんな米は昔は剣菱しか欲しがらへんかった」というように、以前は全量を剣菱が買い取っていた、というより「剣菱が買うから作っていた」もので、昨今の人気は予想できなっかたことでしょう。
栽培地は他県にも広がっているものの、現在もほとんどが兵庫県で栽培されており、令和元年農産物検査結果(令和2年3月31日速報値)では兵庫県のみが計上され、検査数量は725トンで、その内9.9%が特上、55.2%が特等、30.5%が1等という結果で内容的にも目を見張るものがあります。