丹波篠山市に蔵を構える狩場一酒造さんの「秀月 しぼりたて 純米生」です。こちらは”しぼりたて”や”生酒”、”生原酒”をメインに展開している比較的小規模の酒蔵で、冬の季節に次々と新しいお酒が出荷されます。2020年2月製造。
秀月 しぼりたて 純米生 720ml 1,500円(持ち帰り価格)
自家栽培の山田錦を酵母仕込みで
山田錦と五百万石を使った純米生酒です。山田錦は自家栽培米で麹米に使うもの。特定名称表記”純米酒”ながら精米歩合を60%と高精米にしているのは蔵の方針です。酒母はつくらず、酵母仕込みで酵母は協会701号の固形酵母となっています。仕込水は自家井戸で上槽は槽搾りです。
広がり流れるフレッシュで果実的な酸味
意外に果実的でおだやかな香り。口当たりはスムースで、一拍置いて酸味が広がります。この果実的な酸味が終始全体を支配しますが、厚みに立ち上がることはなく、ひたすら広がる方向に流れます。味わいがいろいろに変転することはありません。ほのかな甘味を伴いながらフレッシュで単相のまま推移して、わずかな苦味を見せながらキレて、後を引きません。このため、高いアルコール度のわりに飲みやすく、料理とともに量が進む傾向になります。
丹波篠山で大正5年に創業
丹波篠山市は丹波杜氏組合会館もある丹波杜氏の中心地で、市内には鳳鳴酒造、櫻酒造、黄桜丹波工場とここ狩場一酒造の4つの蔵がありますが、それぞれが地域的に離れた立地にあるとともに異なった規模と特徴のある酒造りをしています。
こちらの狩場一酒造さんは年間300石という比較的小規模の酒造りで、大正5年(1916年)に創業。当初は初代・狩場藤蔵の名前に因んで「亀甲藤醸造」という名称で、現在も煙突には「亀甲藤」と書かれています。現在の「秀月」のブランド名は昭和32年(1957年)に登場し、平成3年(1991年)に直売所「秀月庵」を開くとともに冷蔵設備を増強し、このあたりから「しぼりたて」や「生酒」が中心になったものと思います。平成8年(1996年)には自社所有の田圃で酒米「山田錦」の栽培を始め、麹米を山田錦に。他に県産五百万石や静岡産の日本晴が掛米に使われています。平成30年(2018年)の法人成を機に狩場酒造場から狩場一酒造に名称が変わっています。
真新しい麹室と槽搾りを間近に
地域的にももちろん丹波杜氏さんですが、大ベテランの藤井隆男杜氏が顧問に退き、藤井杜氏の元で酒造りを担ってきた社員さんが製造部長として、「幸せな酔い心地を招く人にやさしいお酒」を引き継いでおられます。
平成6年からはじまった蔵開きでは、2月に蔵見学が実施されます。創業当時からの古い建屋のなかで目を引くのは真新しい麹室で、「3年前に新らしくした」というまっさらな杉材の室では、酒造期間中途切れなく麹造りが行われているそうです。藤井前杜氏さんの「日本酒の肝は麹づくりにあり」「これができたら、酒造りは半分終わったようなもん」という言葉がこの麹室に現れているようです。
また、この規模の酒蔵では酵母仕込みというのは珍しいもので、大吟醸で酛を立てる以外は酵母仕込みを使っているそうです。さらに、上槽は槽搾りですが、アルミ板の間に酒袋をはさんで、搾られた酒が周囲から下だってたれ壺に集められる様子が、蔵見学で間近に見る事ができます。