兵庫県丹波市市島町の山名酒造さんが、新鋭の酒米「Hyogo Sake 85」を使って3シーズン目にこのなる「奥丹波 HyogoSake85 無添加仕込」です。酵母無添加は今シーズンに初登場したもので、純米吟醸の生酒として発表されました。これで、従来からの「生」「火入れ」と併せて3種類のシリーズになっています。2020年6月製造。
奥丹波 HyogoSake85 無添加仕込(生) 720ml 1,870円
酵母無添加の山廃酛
兵庫県立農林水産技術総合センターが開発した「Hyogo Sake 85」を全量使用した純米吟醸酒で、29BYの初出から3シーズン目になります。このHyogo Sake 85 は地元丹波市市島町の「ひょうたん農場」が稲わら、牛糞、籾殻と米ぬかを混ぜて発酵・熟成した堆肥を使う循環農業で育てたもの。2019年8月20日過ぎの収穫であったようです。精米歩合は60%。なんと言っても酒母は酵母無添加の山廃酛という新しいチャレンジで、じっくりと3倍の時間をかけたつくられたところが特徴の生酒です。アルコール度は16度で、日本酒度は+6となっています。一方、同時発売の「火入れ」と「生」はいずれも明利酵母を使った速醸酛で、日本酒度は±0となっています。
絶妙な甘味 丸みのある酸味がたっぷり
いつもの明利酵母ではない蔵付酵母の山廃。まずは爽やかなリンゴの香りが穏やかに上がります。生酒なので冷蔵庫保管ですが、出してすぐより少し温度が上がったところが頃合いです。冷たさが和らいだところで味の立ち上がりが早くなり、舌先に抑制された絶妙な甘味が乗ります。この甘味を包みながら山廃らしい丸みのある酸がたっぷりとめぐり、後半に行くほど果実感をもった旨味が膨らみます。膨らみの最後に柑橘的苦味とともに消えて、綺麗な余韻を残します。日本酒度は+6ですが、やわらかな肌触りを感じるのは山廃のきめ細かさとバランスのよい五味の調和によるものでしょうか。
天然発酵を信じて待つ 酵素剤発酵も発酵補助剤も使用せず
蔵の紹介は「科学の発達した現代では一般的になった優良酵母や醸造用乳酸を添加をやめ、蔵内に住み着く微生物による天然発酵を信じて待つ。酒母造りには通常の三倍以上の時間を要しました。五味が混然一体となった調和はこの夏必飲です」となっており、「ラベル表示義務のない酵素剤、発酵補助剤は一切使用していません」と表示されています。つまり、例えば「純米酒」となっていても米、米麹、水以外に助剤が使われていることは一般的に(全てではありません)あり、これらは原料表示の義務はないものですが、これらを使わないリスクを時間と手間をかけることでカヴァーしてできたお酒ということだと思います。
新たなチャレンジが始まっている
「Hyogo Sake 85」は 1986年(昭和61年)に兵系酒八十五号として開発がはじまって以来、30年余りの歳月をかけて2017年11月に品種登録され、2018年6月に最初の酒が蔵出しされました。(詳しくはこちら)29BYでは山名酒造さんの他2蔵がそれぞれ地元で栽培したHyogo Sake 85を使いましたが、私の知るところ、現在は山名酒造さんが継続し、灘の泉酒造さんがR1BYで新商品を発表されています。山名酒造さんは初年度は火入れ、昨年度は生原酒が追加され、今年はこの酵母無添加とシリーズが拡大してきました。一昨年、昨年と数量限定で、昨年も生は早々に完売になっています。