美吉野醸造「花巴 水酛純米 無濾過生原酒」30BY 奈良県吉野町

吉野千本桜で有名な奈良県吉野郡吉野町にある美吉野醸造さんが酵母無添加で造る「花巴 水酛純米 無濾過生原酒」です。「吉野の風土に寄り添い、人の心に伝わり、感銘を与え、腑に落ちる酒」をコンセプトにした酒造り。現在は全量酵母無添加になっています。2019年4月製造。
花巴 水酛純米 無濾過生原酒 720ml 1,686円

[Hana-tomoe Mizumoto-junmai ] Brewery:Miyoshino jozo, Nara pref, Yoshino city, Specific designations:Junmai-shu, Variety of raw rice:Ginnosato, Degree of rice polishing:70% Pasteurize:no pasteurized ,Yeast:natural addition ,Yeast starter:mizu-moto method, Alc%:17% Fragrance:rice ,Taste:sour and rich

酵母無添加 温度管理を自然にゆだねて

酒蔵を構える吉野の自然や風土に寄り添った酒造りが特徴。従って、細かいスペックに拘るものではありません。一方、その造りは独自性にあふれています。原料米は地元吉野産の「吟のさと」を使用。精米は70%です。酒母は水酛、つまりは菩提酛(正暦寺乳酸・酵母ではないため水酛を名乗っています)で酵母を添加せず、蔵付き酵母で酒母を育てています。醪も基本的に冷却せず自然の温度変化にゆだねるものとなっています。このため酒母も醪も通常の生酛系よりも更に長期間かかっています。アルコール度は17度、日本酒度はー2、酸度は4.3となっています。

酒造りの思いが込められたラベル

酸の味わいに独特の深み

とりわけ酸に特徴のあるお酒。乳酸が真ん中に座りますが、意外に果実的で爽やかな酸が口当たりから一気に膨らみ、口の中をいっぱいにします。フルーティであっても丸みと質感を持った味わい深い酸味です。この深みを支えるのがたっぷりした米の甘味で、表立たずに味わいの幅と厚みをつくりだしています。よくぞ水酛で造ってくれたという旨さです。
やはり燗を試したいところ。55~60℃と熱めの燗で味わいが高まります。生原酒ですが、燗でもしっかりと姿と形を保ちながら酸味も甘味も旨みに昇華して、オフフレーバーを出さないところも特徴です。

蔵の心臓部である酒母室

吉野の風土のなかで、”酸を解放する”酒造り

近鉄吉野線六田駅から吉野川を隔てた川岸に建てられた酒蔵では「吉野の風土に寄り添った」酒造りが行われています。夏は高温多湿になり冬は寒冷になるという紀伊半島内陸の気候のなかで、美吉野醸造の酒の独自性を追及した結果「発酵による酸を抑制する酒造りではなく、酸を解放する酒造り」にたどりつきました。元々、酒造りにおいて酸は邪魔なものとされて、特に東日本ではその傾向が顕著であり、淡麗辛口ブームでこの傾向も極まった感がありました。酸の旨みを中心に据えた酒造りはこれに対するアンチテーゼでもあり、こちらの蔵のような挑戦と努力が実って、現在では酸の価値を肯定的に捉えて、様々な特徴を創造する酒蔵が多く現れたことは嬉しい限りです。

必然としての「酵母無添加」

「もともと上質な酸の出る蔵」というのが出発点。吉野という発酵文化の根付いた風土と向き合いながらその特徴を生かすために、「伝統製法の持つ乳酸のニュアンスをかりる」という酒造りに向かいます。その答えの一つが「酵母無添加」であり、この酒蔵の代名詞ともなっています。昨今では「酵母無添加」の酒造りも広がりつつありますが、美吉野醸造の特徴はメインストリームである山廃酛だけでなく、速醸酛や水酛もすべて酵母無添加にしているところ。例えば、「花巴」ブランドで、この3つを飲み比べてみると、酸の味わいのはっきりした違いを感じます。なかでもこの水酛は独特の酸、乳酸の特徴を存分に表現しています。

サーマルタンクの温度調節機能は一部の酒以外ほとんど使っていない

毎年異なることが”おもしろい”

もう一つは地元産米へのこだわり。これは米を種類で選ぶのではなく「地元の自然に合った米」を作るというもので、契約農家で栽培された「吟のさと」が使われています。同じ吉野町でも平野部と山間部では異なった米となり、もちろん年によっても米は変わります。このことを前提として受入れ、麹を合わせ、酒母も醪も自然の温度変化に任せる酒造りの結果、毎年、異なった酒ができるというもの。一般論として毎年酒質が異なるのは当然ですが、再現性を求めるか異なることを「前提」とするかは大きな違い。「毎年、味が違うことをおもしろいと思ってもらえるかどうか」、そう思うお客さんはファンになってもらえるが、そうでなければ離れていく。「それは仕方の無いこと」というスタンスです。花巴はそのような特約店に限定出荷されています。

上槽はヤブタ式(右)とヤエガキ式(左)

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