奈良県の東部、三重県伊賀地域も近くに迫る宇陀市にある久保本家酒造さんの「生酛のどぶ」27BYです。実はとても人気があるらしい「どぶ」シリーズは他に「大和のどぶ」もありますが、今回は生酛バージョンです。仕込ごとに番号が付けられて、内容が少しずつ異なるようですが、今回は13号の火入れで1年寝かせて平成29年3月製造ものになります。
生酛のどぶ 仕込13号 720ml 1,650円
醪をあらごし 米の旨みを飲む酒
これは是非、熱めの燗で呑んで欲しいお酒です。冷でもいけますが、粗い目であらごしした醪が混ざるクリーミーな口当たりとのど越し、口の中に広がる旨みを楽しむなら、やはり燗がおすすめです。
クリーミーではありますが、さすが+13という日本酒度。甘みはほとんど感じません。酸味や苦味も包み込むこの醪感が味わいの中心で、米の旨みで押し切るお酒です。普通に上槽したら味の厚みが物足りなくなくなりそうです。キレもはっきりしていて、「粗漉しタイプ」にありがちな後を引く甘みはありません。
ただし、飲み方として、「まず上澄みを」「最後に残った醪ともども」というのが蔵の推奨ですが、私的にはこの醪感なしではもったいない。というわけで、最初から思いっきり瓶を振って、かき混ぜていただきました。もちろん、火入れだからできることで、生バージョンではいけません。
強く強くつくったイメージ
原料米については「国産米」としか表記がありません。五百万石や秋津穂などがよく使われているようですが、そのあたりのブレンドは不明です。精米は65%。製麹も強めにつくるということで、通常より時間をかけてヒネ気味にするのかなと思います。酒は生酛。蔵の方によると杜氏さんは生酛がお好きだそうですが、生酛でさらに強靭な耐性の酵母を育てているのでしょう。酵母は不明ですが、このスタイルだと発酵力の強い骨太な酵母だろうと想像します。さらに、こうした酵母で仕込むとすると、当然ながら最後まで糖を食い切った醪がつくれるので、それが+13という超辛口の(まあ、比重ではありますが)お酒に仕上がるのでしょう。米と麹の香りが立ち上った醪の香りがただよってきそうです。
これによってアルコール度も強めになりそうで、生原酒では18~19度あたりになるようです。一方、こちらはアルコール度15度と加水調整と火入れをされて、この造りから想像されるよりかなり優しい飲み口になっています。
「自分がのみたい」というコンセプト
加藤克則杜氏は雑誌のインタビューに答えて、大七の生酛に感動して、故伊藤杜氏に教えを請い、自ら生酛を造る決断をしたとのこと。弟子入りしたのではないようなので、かなり大胆な方のようです。「生酛は、造るには大変だけど、飲むには旨い。だから自分が飲みたくて、真面目に造っている」と答えておられます。この「どぶ」も蔵人たちといっしょに夕食で飲む酒というお話。米を酒にするその過程で造られる味も全て出し切るお酒という印象で、たくさんのファンを掴んだのでしょう。ネットでも高い評価が集まっています。
ただし、ネットだとか雑誌の評論などでは、こうした強い個性を持つ酒ほど評価される傾向にあるので、そのあたりは差し引いて考える必要があります。このお酒がこの蔵を代表するお酒というわけではありません。